債券インカム収益による「バッファー効果」は期待薄

徳島 勝幸
ニッセイ基礎研究所
金融研究部研究理事
年金総合リサーチセンター長
徳島 勝幸(とくしま・かつゆき)
1986年京都大学法学部卒。1991年ペンシルバニア大学ウォートンスクールMBA。資産運用関係の業務に25年以上にわたって従事し、債券投資、資産配分、クオンツ運用、リスク管理、運用コンサルティングなど、さまざまな経験を有する。社会保障審議会資金運用部会委員を務めるほか、証券アナリストジャーナル編集委員でもある

日本経済の潜在成長率は、生産年齢人口の減少に加えて生産性が大幅には伸びないことから、中長期的に低水準で滞留すると想定される。加えて、消費者物価もデフレ傾向から大きく脱却することはできない。海外への生産シフトによるデフレの流入は、円安によって多少緩和されて来たものの、政府と日本銀行が目標とする消費者物価の2%上昇という水準は達成できていない。

前回に触れたフィッシャーの方程式を単純に用いると、消費税率の引き上げによって物価が全般的に上昇するため、2019年秋に金利は必ず上昇すると面と向かって主張された経済学者もあった。しかし、それは税率引き上げに伴う需要の減退と成長率の鈍化を考慮していない皮相的な見方であって、現実には、金利は上昇するどころか、周辺環境の要因からも低下してしまった。中期的な恒等式概念を足元に当てはめるのは、愚行でしかない。投資理論の多くは、運用と借入が無リスク金利で可能であったり、課税が考慮されていなかったりといった様々な前提を置いており、そのまま現実に適用することは妥当でない。

経済成長率が低水準に留まり物価も上昇しないため、長期金利が容易に上昇しないことは、単なる債券利回りの低下のみを意味しない。金利が低水準でも、イールドカーブが右肩上がりの順イールド形状にある限り、保有している個別債券の利回りは毎年低下するため、金利水準が横ばいであっても収益を得ることができる。このロールダウン効果と利息収入によって、保有債券ポートフォリオから得られるリターンは、低金利でもプラスになる。しかし、マイナス金利の世界においては、年限ごとに区分すると、逆イールドになる年限が存在する。当該年限の保有債券利回りは年限が短くなって上昇するため、ロールダウン効果が生じない。

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