大幅利下げの傍ら長期金利が上昇

アライアンス・バーンスタイン 執行役員 運用戦略部長(債券担当) ポートフォリオ戦略室長 シニア・インベストメント・ストラテジスト 荒磯 亘
アライアンス・バーンスタイン
執行役員 運用戦略部長(債券担当)
ポートフォリオ戦略室長 シニア・インベストメント・ストラテジスト
荒磯 亘

米国が最後に利上げしたのは2023年7月だった。前回、利上げから利下げへ転換した2018~2019年はわずか7カ月で政策転換に至ったが、今回は好調な米国経済を背景にインフレ抑制を確認するまで1年2カ月を待つことができた。

また、FRB(米連邦準備理事会)は初回の利下げ幅にあえて0.5%を選択した。潤沢な利下げ余地の存在や、景気の揺らぎを見ればいつでも大幅利下げができるという余裕がこの選択に垣間見える。金融市場も利下げを好感しての株高で応え、長期金利はむしろ上昇に転じた。

大幅利下げの傍らで長期金利が上昇する展開は直観に反するものだ。米国では膨らみ続ける債務問題に対する警戒感が相当強まっており、金融市場の話題は「インフレ」から「財政悪化」へ移りつつある。大統領選挙戦では減税や財政支出の拡大など財政規律軽視のメッセージが出され、米国債の買い手不在を際立たせた。

選挙後は景気刺激策の議論が待つと考えれば金融市場にとって目先のリスクは小さいが、長期的には財政規律の緩み、保護主義の強まりといった政治の圧力が長期金利を押し上げ、いずれ経済活動や金融の拡大を阻害する要因になるだろう。

公的債務のリスクを尻目に、足元民間債務には大きな懸念はみられない。プライベート資産への投資ブームもあり、発行体にとっては資金調達へのアクセス手段が以前より増えたことが追い風だ。ベースとなる国債金利は高い一方でクレジット・スプレッドはある程度タイトな環境が当分続くとみる。

ヘッジ外債は円債よりも優位

過去の事例では、利下げの過程では長短金利差が拡大することが多い。さらに、長期金利が財政リスクの高まりを意識するならば、今回もこの経験則が当てはまりやすい。また米国の利下げによる日米金利差の縮小は為替ヘッジコストの低減につながる。

■利下げ局面では長短金利差が拡大しやすい
利下げ局面では長短金利差が拡大しやすい
期間:1985年1月〜2024年9月。月次ベース
出所:ブルームバーグ、アライアンス・バーンスタイン(アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーとその傘下の関連会社を含む)

ヘッジ外債投資は高い為替ヘッジコストと米国の逆イールドという二重苦に見舞われていたが、最悪期を脱することとなろう。円債では市場規模が限られるクレジット物については、ヘッジ外債の需要は根強いとみている。

本邦投資家にとっては円金利が魅力的な投資対象に復活するか否かが重要な論点だが、残念ながらその点は懐疑的に見ている。

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