三菱UFJ信託銀行 資産運用情報 特許が企業価値に与える影響について三菱UFJ信託銀行株式会社 大嵩崎 裕資
大嵩崎 裕資
三菱UFJ信託銀行株式会社
資産運用部 グローバル株式運用グループ チーフファンドマネージャー
2003年、三菱信託銀行入社。国内株式のクオンツ運用、企業調査アナリストに従事した後、アジア株式やグローバル株式のファンドマネージャーなどを経て、2024年から現職。
慶應義塾大学大学院理工学研究科修了。日本証券アナリスト協会認定アナリスト、CFA協会認定証券アナリスト
Ⅰ.はじめに
近年、企業価値やその成長を評価するうえで無形資産の重要性が増している。有形資産の多くは、貸借対照表上に記載されている項目から把握することが可能であるが、無形資産についてはオフバランス(貸借対照表で計上されない)項目となっていることが多い。無形資産の項目は多岐にわたるが、代表的なものとして、「知的資本」や「人的資本」などが挙げられる。
知的資本とは、2021年に公表されたIIRC(国際統合報告評議会 ※1)の資料によると「組織的な知識ベースの無形資産」と定義されており、「特許」、「著作権」、「ライセンスなどの知識財産権」などがこれにあたる。企業特有の技術やブランドなどが企業活動を行ううえで重要な要素であることは想像に難くない。一方で人的資本とは、「人々の能力、経験およびイノベーションへの意欲」などと定義される。岸田政権が掲げる「新しい資本主義」においては「人への投資」が謳われ、またグローバルの観点でも「人的資本開示」の義務化も進んでおり、今後ますます無形資産としての人的資本の役割は増していくことが想定される。人的資本が企業価値に与える影響については内藤・神田(2023)など他に解説を譲るとして、本稿では知的資本に着目し、中でも「特許」に関する分析を紹介したい。
本稿の構成は以下のとおりである。Ⅱ章では近年の無形資産の重要性について述べ、今回利用する特許データについて説明する。Ⅲ章では特許と企業の配当込み株式リターン(以下、株式リターン)やPBR水準との関係性について説明し、Ⅳ章では今回の分析結果をまとめ、今後の展望について述べる。
※1 IIRCはイギリスで2010年に創立された世界的な非営利組織。企業の財務情報だけでなく、環境保全や地域貢献への取り組みなど非財務情報も含めた情報公開のフレームワーク「統合報告」の開発・促進を行っている。
Ⅱ.無形資産における知的資本としての特許
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