「歴史は繰り返す」といわれるが、今回の円安は歴史上稀有なことのようである。結論を先に述べれば、日本でハイパーインフレが起こる可能性が高まっているかもしれない。

  • 国際的な物価のアンバランスを調整した20世紀の円安
  • 日米の相対物価から大幅に乖離した今回の円安
  • 日本におけるハイパーインフレーションの可能性
  • ハイパーインフレが先かハイパー円安が先か

国際的な物価のアンバランスを調整した20世紀の円安

梅本徹
J-MONEY論説委員
梅本 徹

明治学院大学の岡崎哲二教授によれば、過去日本では、1930年代と1940年代に大幅な円安が起きた。この2回の円安は、国際的な物価のアンバランスが先行し、それを調整する形で為替レートが変化した。

他方、今回は、円高トレンドの期間から継続して米国のインフレ率の方が相対的に高い状態にある(2024年6月25日付け日本経済新聞朝刊「経済教室」参照)。

日米の相対物価から大幅に乖離した今回の円安

図表は、1971年以降のドル円相場と購買力平価(PPP)を対数目盛でプロットしたものである。岡崎教授の指摘通り、観察期間において継続して米国のインフレ率の方が相対的に高かったため、購買力平価は右下がりの円高トレンドを示し、それに沿う形でドル円相場も2020年まで円高となっていた。

■米ドル/円と購買力平価(PPP)の推移
米ドル/円と購買力平価(PPP)の推移
出所:梅本氏

ところが、2021年以降は、購買力平価が引き続き円高トレンドを示す一方、ドル円相場は急速な円安となり、2024年6月には158円と購買力平価の86円に対し83.3%のドルの過大評価となっている。

ここまで大幅なミスアラインメントは1971年以降極めて異例であり(過去のドルの過大評価のピークは1982年10月の33.9%)、今回の円安が、1930年代や1940年代とは異なり、いかに日米の相対物価水準から乖離したものであるかがよく分かる。

日本におけるハイパーインフレーションの可能性

このミスアラインメントは、一般的には、ドル円相場が円高となり購買力平価の水準に収れんすることで解消されると考えられがちである。しかし、現実には、両者の因果関係はツーウエイであり、日本の物価上昇率が米国のそれより高くなることで購買力平価が円安となり、ドル円相場の水準に収れんすることで解消されるかもしれない。

その一例として、日本の暗黒の30年間では、行き過ぎた円高がデフレの元凶であったと考えることができる。現状の83.3%のドルの過大評価が日本の物価上昇による購買力平価の円安シフトで解消されるとすれば、それは、日本おいて将来ハイパーインフレが起こる可能性を示唆している。

ハイパーインフレが先かハイパー円安が先か

すなわち、20世紀には、第二次大戦中の軍事費調達のための日銀による国債引き受けが戦後のハイパーインフレを引き起こし、「日本のデフレや大幅な国際収支不均衡を引き起こすことなく、通常の国際取引を再開するためには(1ドル=360円までの)大幅な円の切り下げが必要とされたのである(岡崎氏)」。

これに対して、21世紀には、財政ポジションがG7中最悪の日本において、日銀による量的緩和通じた財政赤字のマネタイゼーションが、すでに購買力平価から83.3%も乖離したハイパー円安を引き起こしているが、その結果、今後ハイパーインフレが誘発されるリスクが高まっているといえよう。

果たして海外ヘッジファンドが1990年代からベットし続けきた「日本滅亡ストーリー」がとうとう現実化するのであろうか?