日銀短観3月調査・大企業・業況判断DIは、製造業は4期ぶり悪化、非製造業は8期連続改善と、明暗分かれる

宅森 昭吉
景気探検家・エコノミスト
宅森 昭吉

日銀短観2024年3月調査では、大企業・製造業の業況判断DIはプラス11と不正のため稼働停止となった一部の自動車メーカーの影響などで関連業界の業況判断DIが悪化し、2023年12月調査(調査対象企業の定例見直しによる新ベース)プラス13から2ポイント悪化した。4期ぶりの悪化だ。自動車の業況判断DIは12月調査から15ポイント悪化、鉄鋼が3ポイント悪化、非鉄金属が9ポイント悪化した。

一方、大企業・非製造業の業況判断DIはプラス34と、12月調査のプラス32から2ポイント上昇し、8期連続の改善になった。1991年8月調査のプラス41以来の水準だ。引き続きインバウンド需要を反映し3月調査でも宿泊・飲食サービスがプラス52と高水準だった。

日銀がある本石町の短観発表時点の天気と、日銀短観の内容が一致する傾向がある。4月1日の天気は発表時間には早朝の雨はあがったが曇りでパッとしない状況であった。3月調査の全規模・全産業の業況判断DIがプラス12と12月調査のプラス13から1ポイントだが、4期ぶりに悪化したことと整合的だろう。

桜の開花遅れは、景気動向指数の基調判断「足踏み」というパッとしない状況と似ている

東京の桜の開花を判断する標本木は靖国神社にある桜で、昨年2023年は観測史上最も早い3月14日の開花で、22日に満開だった。平年の開花日の3月24日より10日早かった。2024年は桜の開花は3月に入って暖かい日があったが寒い日が多かったため、3月29日とかなり遅れた。1953年から実施されている気象庁の生物観測調査で、今年の開花は早い順で43番目タイとなった。

東京の桜の開花が3月20日以前と早い年は過去12回あるが、コロナ禍の影響が出た20年を除き、早く春が来ると春物が売れることなどから、全て景気は拡張局面に当たってきた。しかし、開花が遅い今年はこのケースには当てはまらず、景気に関してはっきりしたことが言えない。

東京の桜の開花日ランキング
東京の桜の開花日ランキング
◎拡張局面で、その後1年超拡張続く
○拡張局面で、その後1年以内に山を迎える
▲後退局面だがその後1年以内に谷を迎える
●後退局面で、その後1年超後退続く
出所:気象庁、内閣府

東京の桜の開花日が3月28日~30日だったケースは過去9回あるが、景気拡張局面6回、景気後退局面3回で、景気との関係はまちまちだ。開花が遅くなったからと言って景気が良くないとは限らない。過去最も遅かった開花日は1984年の4月11日で満開は17日だったが、1985年6月の景気の山まで景気拡張局面が続いた。

寒の戻りで桜の開花が遅れたことは、景気動向指数の基調判断が「足踏み」に下方修正されたことと似た動きのような感じがする。1月の景気の基調判断の10カ月ぶりの下方修正は、一部自動車メーカーで不正により生産、出荷が停止となったことで、生産関連データを中心に一致CIが一時的に大きく下降したことが要因だ。

4~6月期は自動車生産関連の持ち直しで、前期比上昇になる可能性が大きい

2月の鉱工業生産指数(速報値)前月比はマイナス0.1%と、1月のマイナス6.7%に続き、2カ月連続低下した。1月は、工場稼働停止などの影響を受けて、自動車工業を中心にほとんどの業種が低下した。2月は、引き続き、工場稼働停止などの影響を受けて、自動車工業等が低下したことから、全体として2か月連続で低下した。

鉱工業生産指数が2月速報値段階で発表された製造工業生産予測指数の3月は前月比+4.9%の上昇見込みだ。過去のパターン等で製造工業生産予測指数を修正した経済産業省の機械的な補正値でみると、3月の前月比は先行き試算値最頻値で+4.5%の上昇になる見込みで、90%の確率に収まる範囲はプラス3.7%~プラス5.3%になっている。4月の製造工業生産予測指数の前月比+3.3%の連続上昇見込みだ。

鉱工業生産指数

鉱工業生産指数
・( )内は、3月分を先行きを試算した補正値最頻値前月比(+4.5%)、4月分を製造工業予測指数前月比(+3.3%)で、5月・6月分を横這いで延長した試算値。
・ [ ]内は、3月分・4月分を製造工業予測指数前月比(+4.9%、+3,3%)で、5月・6月分を横這いで延長した試算値。
出所:経済産業省
先行きの鉱工業生産指数、3月分を先行き試算値最頻値前月比(プラス4.5%)で延長すると、1~3月期の前期比はマイナス4.8%の低下になる。4月分を製造工業予測指数前月比(プラス3.3%)で延長し、5・6月分を前月比横這いとすると、4~6月期の前期比は+6.3%の上昇になる。鉱工業生産指数は、1~3月期の前期比が低下するものの、4~6月期は自動車生産などの持ち直しで、前期比上昇になる可能性が大きそうだ。

大企業・製造業・業況判断DIは鉱工業生産指数と強い相関がある。21世紀に入った2001年1~3月期から2023年10~12月期までの期間で、大企業・製造業・業況判断DIは鉱工業生産指数との相関係数は0.634だ。

しかし、鉱工業生産指数の4~6月期持ち直し見通しに反し、3月日銀短観で大企業・製造業・業況判断DIの6月見通しはプラス10と3月実績から1ポイント悪化が見込まれている。業況判断DIの悪化は3つの選択肢に中で「悪い」が増加しているわけでない。「悪い」の割合は3月実績で10%だったが6月見通しは6%で、4ポイント少なくなっている。「良い」も21%から16%に低下しているが、中間項目の「さほど良くない」が69%から78%へ大幅に増加している。企業経営者にとって先行きの不透明感が強いのだろう。

景気の基調判断2カ月連続の下方修正へ。企業経営者の先行きの不透明感を強めることにならないか懸念される

4月5日発表予定の2月景気動向指数・速報値・一致CIは前月差マイナス1.1程度と2カ月連続前月差マイナスが予測され。3カ月後方移動平均前月差、7カ月後方移動平均前月差も2カ月連続マイナスになりそうだ。一方、先行CIは2カ月ぶりの上昇になり先行き、景気が上向くことを示唆しそうだ。

景気動向指数の景気の基調判断が、「足踏み」から事後的に判定される景気の山が、それ以 前の数カ月にあった可能性が高いことを 示す「下方への局面変化」に下方修正されるためには、「7カ月後方移動平均(前月差)の符号がマイナスに変化1カ月、2カ月または3、2カ月または3カ月の累積)が1標準偏差(0.90)以上、かつ当月の前月差の符号がマイナス」であることが条件だ。

2月の一致CIの前月差はマイナス。7カ月後方移動平均の前月差はマイナスが予測され、2カ月の累積でマイナス1.09程度で条件を満たしてしまう。鉱工業生産指数は3月以降持ち直すことなどからさらなる景気判断の悪化は回避されるだろうが、2カ月連続の判断下方修正が、企業経営者の先行きの不透明感を強めることにならないか懸念される。

先行き不透明感が強い時、後ろ向きの行動をとる経営者が増えることを懸念

日銀短観3月調査の2024年度の経常利益見通しは大企業・中堅企業では製造業も非製造業も減益見通しだ。慎重に収益見通しを出したがる経営者心理が伺われる。一時的な自動車減産の影響があり悪化した大企業・製造業。業況判断DIプラス11は、12月調査の先行き見通しプラス8からは3ポイント改善している。見方を変えると、かつての慎重な経営者見通しよりは良かったとも言える。

3月調査の日銀短観では全規模合計・全産業の1年後、3年後、5年後の物価見通しでは、前回調査比でみて、販売価格は全て伸び率を高めたが、物価全般見通しは変化がないという不思議な結果になった。販売価格を上げても批判されない状況になったので自社の値上げは実施するが、どうせ物価上昇率は変わらないだろうと多くの経営者が考えているのだろう。

2023年度設備投資計画は前年3月調査からしっかりしていたが、機械受注などは弱く、設備投資の実績は思ったほど強くなかった。企業が慎重になりすぎた感が強い。今後出てくる表面的に弱い経済指標に惑わされ、先行き不透明感が強いとして、後ろ向きの行動をとる経営者が増えてしまうことが心配だ。