アジア債券市場の現状と見通し、投資対象としてのアジア債券の魅力について、イーストスプリング・インベストメンツのシンガポール拠点で債券運用部門の責任者を務めるブン・ペン・オイ氏に聞いた。(取材日:2018年3月19日)

世界的な景気拡大は当面継続、米国の政策金利は3%超を見込む

ブン・ペン・オイ氏
イーストスプリング・インベストメンツ
(シンガポール)リミテッド
チーフ・インベストメント・オフィサー
債券運用部門
ブン・ペン・オイ

世界同時的な景気拡大を背景に、グローバルで金利上昇が見込まれるとオイ氏は予測する。「リーマン・ショック以降、米国ではドッド・フランク法の制定など金融セクターの改革が進んだ。欧州でも債務危機を経て、金融セクターにおける資産の質が上昇した。景況感を示す指標は米国、欧州、日本とも堅調であり、今後1年半くらいは続くだろう」(オイ氏)

景気拡大が続くなかで、足元のインフレ率の低さは特徴的だ。オイ氏は雇用と求人のミスマッチが理由だと指摘する。「高齢化に伴い新しいテクノロジーに対応できるスキルを備えた労働者が不足し、企業が必要とする能力水準を満たす人材が少ないことから、賃金が伸び悩んでいると考えられる」

こうした背景から、インフレ上昇の兆しは見られないが、景気拡大の持続が今後確認されればFRB(米連邦準備制度理事会)は利上げを行うだろうというのがオイ氏の予測だ。2019年末時点での米国の政策金利は、市場のコンセンサスを上回る3%超を見込む。

好調な輸出を背景にアジア通貨は堅調。高金利・低インフレのインド債券に注目

アジア債券市場は、過去の米国の引き締め局面でも利回りが比較的安定する傾向が見られた。オイ氏は「アジア債券の利回りと米国債の利回りには相関が見られるが、実際に利上げが行われるタイミングにはずれがある。アジアのインフレは低位にとどまっており、アジアの中央銀行は安定的な経済成長の確保の点から急な引き締めを望まないからだ。今後、アジア債券の利上げ幅は米国より小幅にとどまり、債券のパフォーマンスは相対的に良好なものとなるだろう。ただし、世界経済にリセッションの局面が訪れれば、アジア債券も打撃を受けるだろう」と解説する。

アジア通貨については、オイ氏は強気にみている。「アジアは輸出が堅調で、とくにテクノロジーセクターでは韓国やマレーシア、シンガポールが恩恵を受けている。双子の赤字に長年悩まされ、法人税減税によりさらに赤字が拡大する米国とは対照的に、経常黒字が拡大するアジアの通貨は潜在的に上昇余地がある」(オイ氏)

中国債券にはとくに注目しているという。オイ氏は「中国政府は向こう2、3年にわたり年6.5%の経済成長目標を掲げている。シャドーバンキングの融資が減っており、不動産の市況が安定傾向にあるなど、足元の市場環境は良好だ。さらに、3つの主要なグローバル債券インデックスに中国債券が採用されることが決まり、2018年後半にかけてかなりの資金が流入すると思われる」と指摘する。インドに関しては、過去に財政赤字が拡大して利回りが上昇したものの、近年は赤字が縮小し、インフレも低水準にとどまっている。このような環境下で、インドの10年国債の利回りが7%台で推移しているのは魅力的だとオイ氏は言う。

アジアの米ドル建て債券は、とくに投資適格級の社債について、スプレッド/EBITDA有利子負債倍率の数値が米国債券より高い、つまりアジア債券が相対的に割安と判断される点を評価する。

「アジア債券はすでに利回りが高いうえ、通貨に上昇余地がある。米国が利上げを行っても、アジアの中銀はこれまでの傾向から急な引き締めを行わない公算が高く、インフレも低水準にとどまると考えられる。今後もアジア債券は資金の流入が増えると考えている」というのがアジア債券に対するオイ氏の見通しだ。

アジア最大級の運用資産と経験豊かな運用チーム

イーストスプリング・インベストメンツは債券市場において400億米ドルにのぼる運用資産を有するアジア最大級の資産運用会社の1つである。同社のアジアにおける債券運用の強みについて、オイ氏は「スケールメリットによる情報へのアクセス」と「経験豊かな運用チーム」を挙げる。

「アジアの単一国債券のALM(資産・負債の総合管理)マッチングなどのソリューションの提供、アジア債券全般のベンチマーク運用および絶対収益追求型運用戦略、米ドル建てのアジア債券およびその他新興国債券運用など、幅広いソリューションや運用戦略を提供している。運用歴が平均14年の経験豊かなチームが、規律に基づいたプロセスを厳密に適用することが、我々の超過リターンの源泉だ」とオイ氏は語る。