世界金融不安によるドル円相場の急落リスクに要注意
- 急騰を続ける英国のインフレとポンド円相場
- 一段と強まる中国経済に対するネガティブな見方
- 世界金融不安へ進展する可能性に留意が必要
急騰を続ける英国のインフレとポンド円相場
5月中旬以降の金融市場ではリスク選好が強まり、日本株の上昇に伴われるかたちで円安が進行した。5月11日から29日の間に、ドル円相場は133円台から140円台まで、ユーロ円相場は、146円台から151円台まで買い進まれた。米国4月のコアCPI(食品・エネルギーを除く消費者物価)が前年比5.5%、ユーロ圏5月のコアCPIが5.3%にそれぞれ低下する中、5月24日に発表された英国4月のコアCPIが、前月の前年比6.2%から同6.8%まで上昇した。このため、BOE(英国中銀)による利上げ継続観測が再燃し、ポンド円相場は、11日の167円台から6月9日には175円台まで急騰している。
一段と強まる中国経済に対するネガティブな見方
金融市場においてリスクオンの円売りが進展する中で、5月以降、実体・金融の両面から中国経済に対するネガティブな見方が一段と強まっている。実体面では、4月の工業生産が5カ月ぶりに前月比マイナスとなり、同月の住宅価格も上昇鈍化となった。5月のPMI(製造業販売担当者景況指数)は2カ月連続50を下回り、同月の輸出は前月比7.5%の減少した。新型コロナウイルス感染の再拡大もみられると聞く。
さらに、5月のコアCPIは前年比0.6%と前月から0.1ポイント縮小し、デフレ圧力が強まっている。金融面では、4月の家計部門による中長期資金借り入れが2007年以降最大の返済超過となり、中国4大銀行の不動産業向け不良債権は増加を続けている。6月8日には、大手国有銀行が一斉に預金金利を引き下げ、PBOC(中国中銀)による追加利下げ観測が強まっている。金融・商品市場に目を移すと、中国需要の低迷によって国際商品市況は下落し、ドル人民元相場は、5月31日に7.11と2022年11月以来の元安水準なっている。
世界金融不安へ進展する可能性に留意が必要
中国の民間非金融部門向け信用残高は、2010年9月から2020年9月の10年間にGDP比145.6%から224.6%まで急増し、2022年9月末も219.7%と高止まりが続いている。一方、バブル経済期における日本の民間非金融部門向け信用残高は、バブル形成過程の10年間に1984年12月の159.4%から1994年12月の214.2%まで急増した後、バブル崩壊過程で急激に収縮し、2004年12月には164.0%まで低下した(図表)。
日本の歴史が繰り返されるとすれば、現在の中国の信用残高は、資産・負債バブル崩壊の可能性をはらんだ極めて危険な水準にあると言えよう。中国の金融監督当局トップの李雲沢氏は、9日の講演で、「金融システミックリスクを発生させない」と述べており、今後、中国当局が果たしてソフトラインディングに成功するのか否か注目される。中国の金融システミックリスクが、米国やスイスに比べて金融監督行政の責任範囲が不明瞭なユーロ圏に伝播すれば、世界金融不安に進展する可能性がある。その場合、リスクオフの円買いによって、ドル円相場は急落する公算が高い(4月分「アジア発の金融不安がもたらす115円までのドル円相場の急落」ご参照)。