企業年金の資産配分トレンド 第5回 成熟化する新興国投資
新興国投資に対する懐疑
2022年に予定されている冬季五輪の舞台は北京だ。冬季大会は3回連続いわゆる新興国での開催となる。夏季大会も北京、リオでの開催があり、これまで新興国が勢いづいてきたことがうかがえる。
企業年金の株式、債券における新興国投資は、同地域の先進国対比で高い経済成長への期待から一般的と言っていいほど浸透してきた。ところが、株式リターンを例にとると、過去10年間、新興国は先進国に劣後した(MSCI World +13.2%、MSCI EM +6.5%*)。金融危機以降、資本市場は堅調に推移してきたが、「年金資産運用が先進国投資だけで順調にいくなら、リターンリスク効率性の低かった新興国にわざわざ投資する意義は何か」という懐疑も聞かれる。
株式:新興国市場へのエクスポージャーは引き続き不可欠
新興国株式投資を考える上でのポイントは、市場の中で起こった変化に目を向けることだ。前段で挙げた先進国/新興国間の株式リターン格差は、新興国全体に対する成長下押し圧力が存在したというより、主に原油価格低下によるブラジル、ロシアといった資源国における企業収益の低下(2010年代前半)が大きな影響を及ぼしている。一方で、中国、韓国、台湾といった東アジア諸国がテクノロジー分野を中心に存在感を高めてきた。
グローバル株式市場における新興国企業も以前と比べて目立つ。図は、MSCI ACWI(以下、ACWI)構成銘柄のうち各セクター上位20銘柄に含まれる新興国企業を示したものだ。2010年末が2.70%であったのに対し、2020年末は4.21%に増加している(2時点ともACWIにおけるEM比率は13%台)。また国別比率では、ACWIにおける中国は、米国、日本に次ぐ3番目の比率(5.20%、2020年12月末時点)となっている。証券市場へのアクセスなどの制約はあるものの、中国は政策的な投資対象としては外せなくなりつつあるように思われる。
【図表】MSCI ACWI構成銘柄のうち各セクター上位20銘柄に含まれる新興国企業
上記を踏まえると、株式投資において先進国と新興国を区別する意義は徐々に薄れるのではないかとも考えられる。企業年金では、先進国株式と新興国株式を別個の資産クラスとして運営するケースも多いが、株式は先進国、新興国を一体的に管理する余地もあるかもしれない。
債券:先進国と共通するリスクの変化と、新興国特有のリスクに留意を
新興国債券は、先進国対比で小さいとされた財政リスクの割に高い利回りが好感され、企業年金の間で浸透してきた。外貨建債券の採用が新興国通貨リスクを排除できることから主流だ。
だが、この資産でも先進国にもみられる金利リスク、財政的リスクの高まりがみられる。J.P.Morgan EMBI Global Diversified指数の変化をみると、2010年末対比で2020年末のデュレーションは長期化(7.0→8.1)している。財政的リスクの点では、同指数における組入比率の高い南米やトルコの対GDP(国内総生産)対外債務比率は2010年代を通じて上昇傾向にある**。また、引き続き新興国特有の信用リスクには留意が必要だ。個別国では超過収益の源泉として頻繁に活用されるベネズエラやアルゼンチンでのデフォルトが発生した。
とはいえ、平均的に350bp(ベーシスポイント)程度のスプレッド***を持つ特性は魅力的だ。新興国債券市場は、同資産のリスクを慎重に見極めつつ、債券内におけるリターン追求のための資産として、クレジットリスクの分散を考えながら取り込む姿勢が重要だろう。