中国共産党と香港の不動産財閥オーナーとの蜜月時代

中国共産党は香港の選挙制度を抜本的に変更し、影響力を大幅に拡大しようとしている。表向きに語られるところでは、外国勢力が植え付けた民主派野党勢力こそが制度変更により一掃されるべき悪とされている。しかし、いつものようにそれは一番の標的ではないかもしれない。

複雑な新選挙制度案の深層に隠れているのは、香港実業界の大物らの影響を削ぎ落そうという中国の決意だ。中国はこうした財閥こそが、香港での問題の真の原因とみている。新選挙制度には香港における現在の権力構造を終焉させ、過去数十年にわたり市民生活のほぼあらゆる面で影響を及ぼしてきた住宅政策を再構築する狙いがある。

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香港を常に支配してきた野心に燃える大物たちのすべては不動産財閥オーナーたちだ。香港が1997年に中国に返還された際、中国は彼らの信頼を損ねないよう、香港トップの行政長官や立法会(議会)の選挙において企業部門が度を超えて口をはさむのを容認してきた。それに加えて、香港の大物たちと彼らが「ビジネスフレンドリー」とみなす中国国家指導者の間では密接な個人的な関係が存在した。特に江沢民氏は国家主席時代に香港を公式訪問した際、不動産王・李嘉誠氏所有のホテルに必ず滞在するなど2人の関係は緊密だった。

習近平国家主席が、大物実業家らの支配力を警戒しているのは知られている。2012年の最高指導者就任後、習氏は不動産富豪である李氏が公然と反対していた人物を行政長官に据えた。そして、香港大物らと緊密なことで知られていた中国政府の香港出先機関(駐香港連絡弁公室)トップを更迭した。これまで習氏が香港実力者らと会ったのは、遡ること2014年の一度だけである。

2019年の大規模デモで中国政府の堪忍袋の緒が切れた

2019年の香港での大規模デモを受け、中国政府の不動産財閥への堪忍袋の緒が切れた。不動産財閥は、もはや単に香港の拡大し続ける貧富の差や社会の不満の原因と見られるだけでなく、より重要なこととして中国指導部に対抗する陰謀者とみなされることになった。このような見方は、中国共産党寄りの国営新聞「文匯報」に掲載された呉秋北香港工会(労働組合)連合会会長のコメントに明白に表れていた。

香港で中国政府の重要な忠臣とされる呉氏は、2021年2月15日付の記事で次のように述べた。「(不動産市場の)寡占者は、(高騰した土地価格と富の格差の拡大という)真の問題から世間の目をそらすためにいつも巧妙なトリックを用いた。彼らは、自分たちの独占状態を維持するために反対派勢力と結託し、中央政府に盾突く政治的問題を造りあげるのだ」。

呉氏は続けて、「反対派は(香港の問題の)表面にすぎない。中核にいるのは大物実業家らだ。2019年の暴動こそが、そのいまわしい例だ」とした。中国政府の従者がこれほど直接的な言い方をしたのは、これまでなかった。

深刻な富の格差と住宅コスト高騰に優先的に取り組む

その1週間後、文匯報は再び呉氏からのコメントを掲載した。「経済不況の中で、香港の富豪トップ50人は富を7.5%増加させた。この『人が人を喰う』リベラル資本主義は、馬鹿げていて、常識に反する。今後、政府はこうした大物実業家らの影となり、補佐役となるのか。それとも親のように一般市民の面倒を見る存在となるのか?」。

呉氏の発言の内容とその掲載タイミングは、決して偶然ではない。これこそが、中国政府の選挙制度改革案が不必要なまでに複雑になっている所以を示すものである。改革の目的が、単に民主派が議員になったり行政長官選挙で影響を持ったりすることを排除するだけとしたら、ここまで複雑にならない。

中国政府から見て政治的に正しくない発言をソーシャルメディアで発信する人物を締め出すだけならば、提案されている議会選挙立候補者を指名する審査委員会と、行政長官を選出する選挙委員会だけで十分であろう。

中国共産党はそれ以上のことをしようとしている。各界代表で構成される選挙委員会の定数を1200人から1500人に増加させる一方、区議会(地方議会)枠 (選挙委の中で区議にあてられた枠で民主派が優勢)117人は廃止しようとしている。選挙委の定数増加と区議枠廃止で増やされる417人分の大半は、「愛国者団体のメンバー」、つまり親中派の被任命者で埋められることになる。

中国共産党による選挙制度変更案が採択されれば、香港では今後、中国共産党に100%支配される立法・行政機関が、深刻な富の格差と住宅コスト高騰の問題に優先的に取り組んでいくだろう。

シャーリー・ヤム(Shirley Yam)

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