学校法人・金融法人の担当者必見!機関投資家ゼロからの資産運用 【債券・株式共通番外編】第2回 パッシブ・アクティブどう選ぶ?【前編】〜当初はアクティブのみ、現在は併用が主流
前回の「債券・株式共通番外編」第1回では「ベンチマーク」を採り上げました。今回の第2回と第3回では「パッシブとアクティブ」について、2回に分けて解説します。債券や株式のファンドで、「本当はどちらが得なのか」とか「どういった使い分けがあるのか」といった疑問が読者から寄せられています。分かっているようで、実は必ずしも理解が十分とは言えないパッシブとアクティブ。その機能の違いや活用方法などに関して、ラッセル・インベストメントの金武伸治さんに伺っていきます。
ベンチマークへの連動か超過か
パッシブとアクティブ。資産運用の世界にいると、毎日のように使っている語句です。意味も仕組みも知っていて当然のはずですが、自分自身ちょっと怪しい。金武さん。今回は本当に「ゼロ」から、ことばの定義を手始めに教えてください。
金武 前回は、ベンチマークについて説明しました。ベンチマークとは、インデックスと呼ばれる銘柄構成または銘柄集団(例:TOPIXやMSCI World)をもとに、投資対象の市場特性を把握したり、パフォーマンスを計測したりする際の基準でした。
パッシブとは「受動的」という意味ですので、ベンチマークを最適ポートフォリオと考え、それに連動したパフォーマンスを目指す運用となります。また「パッシブ運用」は「インデックス運用」と呼ばれることもあります。
アクティブは「能動的」という意味で、ベンチマークを最適ポートフォリオとは考えず、それを超過するパフォーマンスを目指す運用のことです。
加えて、パッシブにはもう1つの意味合いがあります。パッシブ・アクティブ比率という言葉を聞いたことがありますよね。ここで使われるパッシブとは、政策ベンチマークに連動するパッシブ運用のことを指しています。
つまりパッシブには、インデックスにパフォーマンスを連動させるという「手法」としての意味の他に、政策ベンチマークに連動させるという「目的」としての意味もあるのです。
何か具体的な例で説明いただけませんか。
金武 例えばグローバル株式資産クラスの政策ベンチマークがMSCI Worldであったとします。そして収益源泉を拡張するために、エマージング株式投資として、MSCI EMへのパフォーマンス連動を目指す運用商品を採用したとします。この運用商品の手法自体はパッシブ運用となります。
しかし、政策ベンチマークへの連動が目的ではないため、この場合では、パッシブ・アクティブ比率におけるパッシブにはカウントしないことになります。実際には、政策ベンチマークをMSCI WorldとMSCI EMの複合ベンチマークにしてパッシブにカウントするか、政策ベンチマークからの乖離が発生し得る「ミスフィット・リスク」として認識することになります。
成長銘柄や割安銘柄を発掘してオーバーウエイト
定義は分かりました。では、こうしたパッシブやアクティブという手法は、株式や債券では具体的にどのような形で運用されているのですか。
金武 前回のベンチマーク編でもお話ししましたが、例えば時価総額加重型ベンチマークについて、株式の場合は株価上昇により割高化した銘柄の構成比が高まり、下落により割安化した銘柄の構成比が低くなってしまうという課題を示しました。また債券の場合は、債券発行額、つまり債務の額が多い国や企業ほど、構成比が高まるという課題を示しました。
これに対して、株式のアクティブ運用は、株価が十分に上昇していない成長銘柄や、株価の割安銘柄を発掘しオーバーウェイトすることにより、ベンチマークを超過するパフォーマンスを目指します。
また債券のアクティブ運用は、信用リスク対比で利回りが高い銘柄を発掘しオーバーウェイトすることにより、ベンチマークを超過するパフォーマンスを目指します。
【図表1】は、時価総額加重型のベンチマークが効率的フロンティア上には存在しておらず、従って最適ポートフォリオでない状態を表しています。ここから、アクティブ運用によって、超過リターンの獲得によるリターン向上や、リスク管理によるリスク低減を目指すイメージを示しています。
パッシブは遅れて開発
パッシブとアクティブ。この2つはいつごろ運用されるようになったのですか。
金武 ここまでの説明で、最初にパッシブ運用が存在しており、その発展形としてアクティブ運用が登場したように聞こえるかもしれません。しかし、実際にはアクティブ運用が先に存在し、それに遅れてパッシブ運用が開発されました。当初の運用はアクティブが普通だったのです。
株式のパッシブ運用は、1971年に米国のウェルズファーゴ銀行(この運用部門はその後、バークレイズ・グローバル・インベスターズとなり、また2009年にブラックロックと経営統合しました)が世界で初めて開始したとされています。
パッシブ運用の場合「市場は効率的」という前提ですから、良い情報はすぐに株価に反映され、株価の上昇に伴いベンチマークにおける構成比も高まる(悪い情報はその逆)ということになります。従って、ベンチマークの構成比通りに銘柄を保有することが、低い運用コストで最適なポートフォリオを構築できるという考え方です。
パッシブはリバランスに好適
それでは現在、パッシブ、アクティブをどんな形で運用するのが一般的なのでしょう。
金武 パッシブ・アクティブ比率を事前に決定して政策ベンチマークへの連動を目指すパッシブ運用と、政策ベンチマークからの超過を目指すアクティブ運用を併用するケースが多いです。パッシブ運用はアクティブ運用と比べると流動性が高いことから、資産間のリバランスなどに利用されることが多いです。そのために必要な量をパッシブ比率として決めるケースが普及しています。
次回の「パッシブとアクティブ」後編では、アクティブ運用における超過リターンの機会や、アクティブ運用の近年までの動向や発展についても見てみたいと思います。
- パッシブ運用は、ベンチマークを最適ポートフォリオと考え、それに連動するパフォーマンスを目指す。これに対してアクティブ運用は、ベンチマークを超過するパフォーマンスを目指す
- 株式のアクティブ運用は、株価が十分に上昇していない成長銘柄や、株価の割安銘柄などをオーバーウェイトする。債券のアクティブ運用は、信用リスク対比で利回りが高い銘柄などをオーバーウェイトする
- パッシブ・アクティブ比率を事前に決定して、政策ベンチマークへの連動を目指すパッシブ運用と、政策ベンチマークへの超過を目指すアクティブ運用の併用が一般的
- 流動性が高いパッシブ運用は、資産間のリバランスなどに利用されることが多い
次回は「パッシブ・アクティブどう選ぶ?」(後編)
■【債券・株式共通番外編・第3回】は12月25日(水)にお届けする予定です
■質問や要望は下記フォームからお願いします。今後の連載に生かします
【解説】金武伸治
ラッセル・インベストメント
エグゼクティブ コンサルタント
トータル・ポートフォリオ・ソリューション本部長
1995年、野村総合研究所入社。クオンツ・アナリストとしてスタート。2000年、バークレイズ・グローバル・インベスターズ(BGI)でグローバル債券ポートフォリオ・マネージャー。2009年、BGIと経営統合したブラックロックでグローバル債券ストラテジスト、債券戦略部長。2015年、格付投資情報センター(R&I)で資産運用コンサルタント。2022年、ラッセル・インベストメントで資産運用コンサルタント。慶應義塾大学理工学部卒業 早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了 日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)
【構成・執筆】阿部圭介
J-MONEY論説委員
1980年、朝日新聞社に入社。整理部記者として紙面編集を担当、経済部記者として金融、証券、情報通信などを取材。経営企画室長、大阪本社編集局長、朝日ビルディング社長を経て2022年3月まで朝日新聞企業年金基金常務理事。2022年4月から現職
「年金資産運用・基礎の基礎」シリーズ一覧
▼「債券編」のバックナンバーはこちら
【債券編 第1回】そもそも金利上昇でなぜ債券価格が下落?
【債券編 第2回】それでも債券投資を続ける理由とは?
【債券編 第3回】なぜ米国債に多く投資?
【債券編 第4回】債券は多種多様
【債券編 第5回】複雑怪奇な金利の年限
【債券 番外編】日本国債は本当に安定資産?
▼「株式編」のバックナンバーはこちら
【株式編 第1回】企業年金運用にとって株式とは
【株式編 第2回】バリュー株とグロース株
【株式編 第3回】クオリティ株と最小分散
【株式編 第4回】大型株と小型株
【株式編 第5回】日本株とグローバル株
【株式編 第6回】エマージング株
【株式編 第7回】まとめ
▼「債券・株式:共通番外編」のバックナンバーはこちら
【債券・株式:共通番外編 第1回】ベンチマークって有効?
【債券・株式:共通番外編 第2回】パッシブ・アクティブどう選ぶ?(前編)
【債券・株式:共通番外編 第3回】パッシブ・アクティブどう選ぶ?(後編)
【債券・株式:共通番外編 第4回 マーケット温故知新】リーマンとコロナ、2大ショックの違い
▼「オルタナティブ編」のバックナンバーはこちら
【オルタナティブ編 第1回】オルタナティブって何?
【オルタナティブ編 第2回】ヘッジファンド、こうしてリターン獲得
【オルタナティブ編 第3回】ヘッジファンド、主な視点は「相対価値」と「方向性」
【オルタナティブ編 第4回】プライベート・アセット投資なぜ急速に拡大?
【オルタナティブ編 第5回】プライベート・エクイティ、上場株と何が違う?
【オルタナティブ編 第6回】不動産とインフラストラクチャー
【オルタナティブ編 第7回】プライベート資産に流動性リスク
【オルタナティブ編・番外】ヘッジファンド、「出番」はいつ?
▼「もっと知りたい!債券編」のバックナンバーはこちら
【もっと知りたい!債券 第1回】先進国国債は運用の「守護神」
【もっと知りたい!債券 第2回】投資適格社債とハイイールド社債
【もっと知りたい!債券 第3回】エマージング債に2つの「顔」
【もっと知りたい!債券 第4回・番外編】イールドカーブ徹底解剖
【もっと知りたい!債券 第5回・番外編】過去事例から学ぶ逆イールド
【もっと知りたい!債券】第6回 知っていますか「証券化商品」・前編
【もっと知りたい!債券】第7回 知っていますか「証券化商品」・後編
【もっと知りたい!債券】第8回 今さら聞けない「アンコンストレインド」
【もっと知りたい!債券】第9回 為替はリターン源泉か?
【もっと知りたい!債券】第10回 ヘッジコストはどう決まるのか
▼「ポートフォリオ構築のABC編」のバックナンバーはこちら
【ポートフォリオ構築のABC】第1回 まず「自画像」を知ろう
【ポートフォリオ構築のABC】第2回 運用方針を策定する
【ポートフォリオ構築のABC】第3回 政策アセットミックスを策定する
【ポートフォリオ構築のABC】番外編 なぜ株式と債券にも正相関が発生するのか
【ポートフォリオ構築のABC】第4回 資産クラスごとに運用戦略を構成
【ポートフォリオ構築のABC】第5回 いよいよ運用開始!
【ポートフォリオ構築のABC】第6回 四半期運用報告ここがチェックポイント
【ポートフォリオ構築のABC】第7回 運用会社を評価。結果次第で「入退場」も
【ポートフォリオ構築のABC】第8回(最終回)PDCAサイクルを回し続ける