• トランプ・トレードは短命
  • 「分断の時代」に即した国際金融制度の構築
  • 関税は「ニクソンショック」における交渉の切り札
  • 中央銀行のバランスシート縮小が急務

トランプトレードは短命

2025年1月の新政権発足に向けたトランプ・トレードによって、株とドルはすでに上昇した。本稿では、もう少し長期的な視野に立った第2次トランプ政権の通貨金融政策が金融市場に与える影響を考える。

「分断の時代」に即した国際金融制度の構築

梅本徹
J-MONEY論説委員
梅本 徹

第一に、国際金融制度改革が望まれるところである。米国は、第2世界大戦後に自らが構築したブレトンウッズ体制(金ドル本位制)を1971年に放棄して以降、1978年から1984年までの一時的な中断期を除いて、1995年までドル安政策を継続した。ただ、それ以降導入した”strong dollar” lineと呼ばれるドル高・市場不介入政策の結果、現在、ドルの実質価値は著しく上昇している。

また、ウクライナ戦争によって米国がロシアのドル建て資産を凍結し、同国をSWIFT(国際決済システム)から排除したため、東側諸国は、独自の国際通貨制度の構築に動き出した。さらに、歴史は、経済戦争が通貨切り下げ戦争へ発展することを教えている。米新政権は、ドル高を是正すべく「分断の時代」に即した新たな国際通貨制度の構築に動く公算がある。

関税は「ニクソンショック」における交渉の切り札

図表は、ドルの実効為替相場(Broadベース)のフェアバリューからの乖離率を示したものである。

■ドル高オーバシュートは米国のドル政策転換の歴史
ドル高オーバシュートは米国のドル政策転換の歴史
出所:Fed

米国は、1971年に「ニクソンショック」によってブレトンウッズ体制を放棄しドル安政策を開始したが、その時点のドル高オーバーシュートは30%前後と推察される。1984年には、1978年にインフレ対策として導入したドル高政策の結果、ドル高オーバーシュートが30%を超えたため、同年の「プラザ合意」によって、ドル安政策への転換を果たしている。1995年に米国は、”strong-dollar” lineと呼ばれるドル高・市場不介入政策を導入、2002年にドル高オーバーシュートが16%に達した結果、米国は2003年のドバイで開催されたG7財務相中銀総裁会合を契機に中国に実質的な人民元切り上げを迫り、同国は2005年に管理フロート制に移行した。

2024年現在、ドル高オーバシュートは20%を超えており、米国がいつドル安への政策転換を行っても不思議ではない状態となっている。発足前のトランプ新政権は、大幅な関税引き上げを主張している。これは、米国が1971年に導入した10%の輸入課徴金を”Bargaining Chip”すなわち「交渉の切り札」として主要各国にドル安と変動相場制の導入を迫ったことを想起させる。

中央銀行のバランスシート縮小が急務

パンデミック以降、財政政策のタガが外れた世界経済は、脱炭素、「世界の分断」と貿易戦争、ポピュリズムの台頭等によって、「インフレの時代」に突入した。一方、主要国の中央銀行のバランスシートは、世界金融危機やパンデミックに際して導入された量的緩和の結果、金融政策正常化後も、伝統的な金融政策運営時とは比較にならないほど拡大した状態が放置されている。

2010年代の米国の経験を踏まえるなら、現在実施されている量的引き締めによっても、各国中銀のバランスシートが元に戻る公算は低く、今後のインフレ圧力の増大に対する構造的な脆弱性が指摘されている。したがって、新政権下では、国際金融制度改革と同時に、新たな金融政策の枠組み導入も急務となろう。一部の保守派は金本位制の復活を提言している。端的に述べるなら、中央銀行の国債保有を減らし、財政赤字拡大に歯止めをかける金融政策制度の構築が必要である。