• 「一目均衡表」とは
  • 2021年来ドル円相場をサポートしてきた「雲」
  • 「ディリバレッジ」が招いた8月のドル円相場の急落
  • ドル円相場の円高大転換は近い
  • 第二、第三の円キャリートレードの巻き返しに注意

「一目均衡表」とは

梅本徹
J-MONEY論説委員
梅本 徹

筆者はファンダメンタリストだが、長年の同僚であり親友でもあったテクニカルアナリストの故近藤人志氏から多くの影響を受けた事柄の一つに「一目均衡表」がある。

週次の一目均衡表は、基準線(過去26週間の最高値と最安値の平均値)、転換線(過去9週間の最高値と最安値の平均値)、先行スパン1(基準線と転換線の平均値を26週間先行させた値)、先行スパン2(過去52週間の最高値と最安値の平均値を26週間先行させた値)、遅行線(終値を26週間遅行させた値)の5線から構成される。本来ならこれに週次のキャンドルチャートを組み合わせるのだが、筆者のシステムでは両者を一緒にプロットできないので、代わりに週次の最安値をプロットした(図表)。

■ドル円相場の一目均衡表(週次)
ドル円相場の一目均衡表(週次)
出所:筆者作成

2021年来ドル円相場をサポートしてきた「雲」

一目均衡表の詳細はテクニカルアナリストに譲るが、2021年1月以降のドル高円安局面において、ドル円相場が、先行スパン1と先行スパン2によって構成される「雲」と呼ばれる帯状の部分によって見事にサポートされてきたことは注目に値する。

2022年後半の財務省による円買い介入と日銀によるYCC(イールドカーブコントロール)の上限金利引き上げによって、ドル円相場は「雲」の中まで下落するものの、2023年前半には、「雲」の下限である先行スパン2にサポートされ上昇トレンドに復帰した。また同年後半には、日銀によるYCCの上限金利撤廃とFed(米連邦準備制度)による利下げ観測が強まる中、ドル円相場は再び下落を開始したが、このとき「雲」の上限であった先行スパン2にサポートされて、上昇トレンドを回復している。

「ディリバレッジ」が招いた8月のドル円相場の急落

2024年央には、財務省による大量の円買い介入を日銀が予告なき金融引き締めによって非不胎化したことなどで、ドル円相場は再び「雲」の内部まで下落した。

今回の急落は、おもに海外ヘッジファンドによる円キャリートレードの巻き返しによってもたらされた。7月末の外為市場では、リスク鈍感症に陥りリバレッジの限度までキャリートレードを積み上げていたヘッジファンドが、ドル円相場の下落による評価損の発生によって担保不足に陥り、その巻き返しを余儀なくされ、それがさらにドル円相場の下落を招くという負のスパイラル「ディリバレッジ」が等比級数的に広がったのである。

ドル円相場の大転換は近い

一目均衡表に従えば、ドル円相場が週次の終値ベースで、ただちに1ドル=140円以下に下落するか、今後数週間現行水準が継続し先行スパン2が切りあがった結果、「雲」の下方に完全に突き抜けた場合、2021年来のドル円相場の上昇トレンドの円高大転換が確認される。

第二、第三の円キャリトレードの巻き返しに注意

前述の通り、2024年央のドル円相場の急落を演出した主体は、海外ヘッジファンドだったが、彼らの円キャリトレードはいぜん大量に残存していると考えられる。加えて、今後、ドル円相場の大転換が確認されれば、第二、第三の円キャリートレードの巻き返しが実行される公算が高い。

長年にわたる大幅な内外金利差と継続的な円安によって、輸出企業によるヘッジの短縮化と、輸入企業によるヘッジの長期化が常態化していると考えられる。中には、ヘッジを恒常的にゼロとしている輸出企業や、向こう数年間のヘッジをすでに実施してしまった輸入企業も存在するであろう。また、本邦投資家はヘッジ比率を大幅に引き下げ、海外投資家はヘッジ比率を大幅に引き上げていると考えられる。

さらに、内外収益・金利格差と円安の中、日本企業が海外にプールしている留保利益は100兆円を超える。これらはすべてある種の円キャリートレードと考えることができる。

ドル円相場の円高転換によって、国内海外の企業・機関投資家が、このよう種々雑多な円キャリートレードの巻き返しに着手すれば、ドル円相場は115円近辺まで再急落すると考えられる。