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新たな規律は株式市場の成長を促すか?

J-MONEY2015年夏号 注目記事

金融・資本市場改革の現在

2つの「コード」とIPO審査強化
新たな規律は株式市場の成長を促すか?

日本政府が掲げる成長戦略の一環として、金融・資本市場の活性化に向けたさまざまな取り組みが進められている。なかでも、資本市場の主要なプレイヤーである機関投資家に対してはスチュワードシップ・コード、企業にはコーポレートガバナンス・コードという2つの指針を金融庁が示し、株式・債券市場の信頼性や透明性の向上と、その帰結としてリスクマネーの供給を目指している。証券取引所もIPO市場の活性化を目的として、不適切な取引に対する規制の強化などの方針を示した。金融・資本市場改革の中身とその狙い、これらの改革がマーケットに与える影響について、関係者に話を聞いた。

スチュワードシップ・コード

市場の構成員が長期視点を醸成し企業の持続的な成長を実現する
企業と投資家のとの関係を大きく変えると期待される「日本版スチュワードシップ・コード」。株式市場を構成する各構成員の果たすべき役割や長期投資の視点がもたらす効果などについて、青山学院大学大学院国際マネジメント研究科教授の北川哲雄氏に聞いた。

高付加価値の産業を創出する
機関投資家に向けた行動原則

 安倍政権の「日本再興戦略」では、「グローバル競争に勝ち抜ける製造業を復活させ、付加価値の高いサービス産業を創出する」ことが目標の1つに掲げられた。その実行プランの1つとして、機関投資家向けの行動原則である、いわゆる「日本版スチュワードシップ・コード」が誕生した。

 コードの冒頭には、コードを履行するために必要とされる「スチュワードシップ責任」を「機関投資家が投資先企業やその事業環境等に関する深い理解に基づく建設的な『目的を持った対話』(エンゲージメント)を通じて、企業価値の向上や持続的成長性を促すことにより『顧客・受益者』のなかの長期な投資リターンを図る責任を意味する」と定義されている。

 ここで注目すべきは、この「スチュワードシップ責任」が従来の「受託者責任」とは異なり、企業と対話する長期志向の投資家によって果たされるものであるということだ。スチュワードシップ・コードに準拠した機関投資家・運用者は、運用パフォーマンスを期待されるだけでなく、投資先企業の持続的成長への貢献も求められることになる。

 しかしながら企業の成長は、機関投資家の努力だけで実現するものではない。企業が成長するうえで欠かせない存在である株式市場は、この両者のほか、アナリスト、年金基金などのアセット・オーナー、基金へ資金を拠出する国民らによって構成される。しかも国民の多くは企業にかかわっていることから、構成員が有機的につながった、いわば「インベストメント・チェーン」を形成している(図表1)。

 青山学院大学大学院国際マネジメント研究科教授の北川哲雄氏は、「株式市場にかかわるすべての構成員に長期の視点が醸成されなければ、企業の持続的な成長は望めないといっていい。日本版スチュワードシップ・コードの導入が、その契機となる」と期待する。

 企業の持続的な成長を阻む要因に、投資家の過度なショート・ターミズム(短期主義)が指摘される。情報技術の進歩による株式市場の発展は、短期売買でも利益を獲得する機会を増やし、結果的にショートタームで売買する投資家の割合を引き上げた。北川氏は「ヘッジファンドやクオンツ運用に見られる短期運用は否定されるべきではないが」とする一方、「長期投資の投資家が、本来あるべき運用哲学に則った運用をしていない懸念があることこそが問題」と強調する。

 さらに、短期主義が拡大した理由として「四半期決算報告制度の導入」を挙げる。アナリストは、企業への取材を基に顧客を集めて四半期決算プレビュー・ミーティングを開催することも多い。こうした会合にファンドマネージャーがこぞって集まることで企業に対する知識レベルは均質化し、結果として、ある情報に対して同じ投資行動を取る傾向を強めてしまうのではないかと指摘している。

 「ITなど企業の寿命が比較的短いセクターもあるため、四半期ごとの決算情報の開示がすべて不要とは思わない。必要性を感じるセクターがこの制度を継続し、市場全体としては開示を義務付けないことが短期主義解決への一案だ」と北川氏は語る。同時に、長期の分析力を備えた運用機関の重要性を自ら証明するアセット・オーナー側の覚悟も今後必要だという。

5~7年で企業を評価し
自らの予想で大胆に投資

 短期的な株価の変動から離れ、長期トレンドを算定するのが真の長期投資家である。長期の業績予想を行うには、それ相応のタイムホライズン(時間軸)が必要になる。過去にバイサイドアナリストとして長い実務経験を持っていた北川氏は、「少なくとも5~ 7年の期間で企業を評価し、自らの予想に基づいて大胆に投資の意思決定をすることが長期投資家の鉄則」と語る。

 たとえば図表2の株価は、グラフのジグザグ線のように日々ランダムに動いているが、これを数年の期間として見た場合には、株価はかなり上昇していることになる。業績が良くなることが予見される時点、その可能性が高くなる時点で株価は反応するため、市場参加者の大半がそう思い始めたころにはすでに遅く、このタイミングをいち早くとらえることが重要になる。

 こうした予想を可能にするのが、時間軸を合わせた企業との建設的な対話である。日本版スチュワードシップ・コードの後に公表されたいわゆる「伊藤レポート」では、株主資本コストを上回るROE(自己資本利益率)や機関投資家のリサーチ体制の充実など、企業と投資家の望ましい関係構築に向けた1つの筋道が示され、資本市場にとってエポックメイキングとなった。

 そのポイントを絞れば、ショート・ターミズムを排し、企業が出す長期企業価値の向上策について機関投資家に吟味することを求める一方、企業側には、説明会やアニュアル・レポートなどさまざまなツールを通じて長期企業向上策を発信し、機関投資家とのベクトルにズレが生じないための対話を促していることだ。

企業との高質な対話は
精神分析医の存在になること

 レポートでは「高質な対話」という表現を使い、その重要性を説いている。「この対話を実現できる投資家とは、過去の経緯から連続体として会社をきちんと把握している、いわば悩みを聞く精神分析医のような存在だ。こうした投資家との高次元の会話が、高質な対話ということではないだろうか」と北川氏は強調する(図表3)。

 一方、対話にあたって企業側に求められるのは、能動的に取り組む姿勢だ。対話の時間軸を長期に設定するための開示事項を、念入りに検討する必要がある。詳細である必要はないが、長期投資を旨とする機関投資家が納得できる説明も必要になる。企業の情報発信力が問われるといってもいいだろう。

 北川氏は、日本でも優れた情報開示を行っている企業が増えているとしたうえで、一例として東京海上ホールディングスと日立製作所の取り組みを挙げる。「東京海上ホールディングスによる米保険会社HCCインシュアランス・ホールディングスのM&A案件では、30%超のプレミアムを付けているが、ホームページ上の資料でその妥当性の根拠となると考える数々の資料を的確に開示しており、非常に興味深い。優れた投資家は、これを慎重に読み取り投資の意思決定をすることになる。日立は、年に1回『IR Day』と呼ばれる大規模な事業説明会を開催。Webにも、当日のほぼすべての情報が掲載されており、情報が充実している。両社の情報開示姿勢に共通するのは、一定の節度をもって行い(必要と思われる情報を出すが)、後は受け手の審美眼に委ねていること」と解説する。

 他方、企業のなかには、投資家との対話に積極的な姿勢を示さない企業もあるという。「優れた業績を出しているが、ガバナンス・システムについて資本市場に背を向けている企業もある。ただ、長い目で見れば、株式市場から正当な評価は受けにくい」と、一部企業の取り組みを危惧する。まさに、上場企業が守るべき行動規範を網羅した「コーポレートガバナンス・コード」が重要になるわけだ。

 国内では、数多くの機関投資家が日本版スチュワードシップ・コードに署名している。「企業分析とはどういうものか? 長期的な企業価値を上げるにはどうすればいいか? 高質な対話とは何か? といったことを真剣に考えることが不可欠だ。コードの重要原則の7に『対話やスチュワードシップ活動に伴う適切な実力を備えるべき』とあり、これを身に付けるための不断の努力が必要になる」と北川氏は語る。

コーポレートガバナンス・コード

企業の将来を左右する投資家による長期視点の評価
経済の持続的な発展と成長を促すため、企業と投資家による対話(エンゲージメント)を通した関係構築を推奨する「コーポレートガバナンス・コード」。遵守規定も罰則規定もないこのコードを、企業はどのように捉え、対応していくべきか。「持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~」プロジェクトの参加者の1人である、ブラックロック・ジャパンの江良明嗣氏に話を聞いた。

コードをどう受け入れるのかは
企業の判断に委ねられる

 2015年6月1日から国内企業への「コーポレートガバナンス・コード」の適応が開始された。同コードでは、企業の持続的な成長と中長期的な企業価値向上を実現するうえで求められる行動や規範が定められている。具体的には①株主の権利・平等性の確保、②株主以外のステークホルダーとの適切な協働、③適切な情報開示と透明性の確保、④取締役会等の責務、⑤株主との対話の5つの「基本原則」とそれらを具体化するための多数の「原則」「補充原則」で同コードは構成されている。国内の上場企業のうち3416社が「コーポレートガバナンス・コード」の適用対象となり、他の国と比べてみても日本の対象企業数は多い(図表4)。

 「コンプライ・オア・エクスプレイン」の考え方に則り、各企業は株主総会の開催日から6カ月以内に、コードにまとめられた諸原則を実施するかどうかを決め、実施しないのであれば、その理由をコーポレート・ガバナンス報告書にまとめて東京証券取引所に提出しなければならない。また「プリンシプルベース・アプローチ」を採用しているため、開示のためのフォーマットがあるわけではなく、どの原則を受け入れ実施するかも企業の自由裁量に任されている。

 現状の企業の対応状況はどうなっているのか。ブラックロック・ジャパンコーポレートガバナンス・チームの江良明嗣氏は「実態としては、株主総会の担当者がコーポレートガバナンス・コード対応の担当を兼務していることが多い。株主総会が終わったあとに、ようやく各社で本格的な対応が始められるだろう。6月に株主総会を終えた企業であれば9月以降にかけて開示が行われるのではないか」と予想する。

経営の考え方と価値観をわかりやすく伝える

 機関投資家に、企業との建設的な「目的を持った対話」を求める「日本版スチュワードシップ・コード」(2014年2月26日に策定・公表)に呼応する形で「コーポレートガバナンス・コード」は制定されることとなった。車の両輪に例えられるように、2つのコードが相まって日本の上場企業のコーポレートガバナンス(企業統治)が充実し、企業の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上が実現すると金融庁をはじめとする関係者は期待している。

 だが、ガバナンス(統治)を巡るこの一連の流れについて、江良氏は「成長力、収益力に焦点が当たっているということは、世界で渡りあえるような強い企業が少なくなりつつあるという現実に直面していることを意味する」と別の角度からも注目する。持ち合い株の解消や平均ROE(自己資本利益率)水準の上昇といった話題に注目が集まるなか、「コーポレートガバナンス・コード」の導入自体の成果を測るうえでは、経営手腕を見つめ直して収益力を上げられた企業がどの程度増えたのかということが問われてくる。

 江良氏は「今後は『コーポレートガバナンス・コード』への対応に差が生じ、二極化が鮮明になるだろう。意欲があり、積極的に対応する企業は投資家を惹きつけていく。一方、そうでない企業は、投資家から関心を持たれなくなっていく」と続ける。確かに、コードの適用対象となる企業が圧倒的に多いため、必然的に対応の質にバラツキは出てくるだろう。だが、なによりも重要なのはコードへの取り組み姿勢だ。

 例えば、社長をはじめトップマネジメント層が関わり、コードが求めている本質的な部分、いわば精神を受け入れて対応している企業は、開示される情報や対話の場面で語られる言葉に真剣さが宿り、投資家に熱意が伝わるものだ。一方で精神を理解せず、対応することが目的化してしまう企業の対応はそれなりのものに終始してしまう。

 それでは、企業は具体的にどのように「コーポレートガバナンス・コード」に対応していけばいいのだろうか。前提として企業の対応を評価するのは、ほかでもない機関投資家だ。だが、企業の業績を評価するポイントや運用する銘柄の数が投資家によって異なるため、売上高や四半期決算等の細かい数字を列挙すればいいというわけではない。江良氏がポイントとして挙げるのが「ストーリー性」と「企業の考え方や規律」だ。

 「経営者が長期的にどんなことを考えていて、どんな実行プランを持つのか。それを踏まえて現在の経営状況をどう評価しているのか。そのための組織体制や人事制度はどうしているのか等を筋道を立てて、わかりやすい言葉で説明することが大切だろう。どんな企業にも『規律(=行為の基準)』や大切にしている『価値観』があるはずで、私たち投資家はそれが何かを知りたい」
 「規律」や「価値観」は競争力の源泉や、経営判断を下すうえでの基準とも言い換えられる。経済産業省が事務局を務める「投資家フォーラム作業部会」では、一般的に投資家が企業に聞きたいポイントを質問表としてまとめているので、こうした資料を参考にしてもいいだろう(図表5)。

 加えて、江良氏は「企業の開示や取り組みにお墨付きを与えるのは投資家だが、投資家自身は企業が何をすればいいかという答えを持ってはいない」と強調する。コンプライとエクスプレインのどちらにしても、投資家を納得させられるかが要点であり、極論すれば社外取締役を置かなかったとしても、投資家が納得しているのであれば問題はないはずだ。

尊敬される投資家が企業の収益力を上げる

 一方で、投資家側にも企業と同じ目線、同じ時間軸に立つことが求められる。仮に対話の場において、経営者が5年や10年といった中長期のタームで事業計画を説明しているのに、直近の四半期の結果や株主還元にばかり固執して質問をすることは「責任ある投資家」の在るべき姿といえるのだろうか。

 対話の質を上げるためには、投資家と企業が同じレベルで議論し切磋琢磨することが不可欠だ。「私たちは企業を適切に評価し有用な提言ができる、尊敬される投資家にならなければいけない。投資家が企業を評価するように、投資家も企業から選別されるだろう」と江良氏は話す。

 現時点で「日本版スチュワードシップ・コード」と「コーポレートガバナンス・コード」がもたらしたものが3つある。それは市場関係者の間で、①ガバナンス全般についての関心が高まり②投資家に対する認識が改められ③「企業と投資家の対話」に対して好印象が持たれるようになったことだ。企業と投資家の関係性が変わりつつあるなかでは、変化を長い目で見守ることができるかが問われてくる。江良氏は「上手く説明できていないと非難するばかりでは、萎縮して消極的な情報開示に留まってしまう」として、懸念を抱くとともに、とりわけ最初の段階では興味深い点や前向きに評価できる点を指摘するほうが、積極的な開示の奨励につながると予想する。

 確かなことは、「コーポレートガバナンス・コード」で掲げられる原則を遵守するにせよ、遵守しないにせよ企業はコードへの対応を求められ、投資家は一定の評価を下すということだ。このコードが、継続して成長を続ける企業に変わるための「きっかけ」になるかどうかは、企業と投資家の対話にかかっている。自社の設立理念や創業者の想い、目指すビジョン、自社に本当に必要なものは何かを見据え、企業全体の「棚卸し」を行い、ポジティブに臨む企業が増えることが望まれる。

IPOの上場審査の強化

目的はあくまで市場の健全化 過度な規制は望まない
一部の新規上場企業が、上場直後に業績予想を下方修正するなどの事態が相次いだことが問題視され、上場審査の厳格化の方針が打ち出される事態となった。IPOをめぐる現状と対策について、東京証券取引所上場部の担当者と、一橋大学大学院国際企業戦略研究科の野間幹晴准教授に話を聞いた。

「率直に言って残念」信頼回復に向けた方針

 IPO市場は回復の途上にある。2006年には年間200件に迫るほど活発にIPOが行われたが、2008年のリーマン・ショックで市場は大きく落ち込み、2009年から2010年にかけては年間20件程度にまで減少した。この時期を底として、足元では2006年の水準の半分にも満たないものの、年次の件数ベースではIPOは右肩上がりを続けている。

 とくに2012年の政権交代後は、円安や株高が追い風となって大型のIPOが続々と成立した。新興市場では、ITやバイオテクノロジーといった新しい産業でのIPOが目立った。その一方で、一部のIPOに対して投資家が疑問を呈する場面が見られた。2014年の後半に上場を果たした企業が、上場して間もない時期に業績予想を下方修正したり、企業にとって不利に働くと思われる事実を上場直後に公表するといった、投資家にとっては看過しがたい状況が散見された。

 こうした状況に日本取引所グループが動いた。2015年3月31日に、IPOを行う企業に対する上場審査の厳格化の方針を打ち出したのだ。ただし、「厳格化」の中身は「収益力や成長力が見込めない企業は上場すべきでない」といったような企業の業績を対象としたものではなく、あくまで「不適切な取引への対応の強化」だ。

 東京証券取引所の上場部企画グループ課長、渡邉浩司氏は「IPOに関して取引所もいろいろなご指摘をいただいた。率直に言ってこのような事態になったことは残念だ」と振り返る。「この状況を放っておいたら、IPOに対する投資家の信頼を損ないかねないということで、取引所としての対応策を打ち出した」

 主な対応策は以下の2点。1点目は、経営者が関与するような不適切な取引に対する審査の強化と、そうした取引が行われないよう、企業の経営者や役員に対してセミナーなどを通じて啓発を行うこと。2点目は、多くの投資家に指摘された業績予想の修正について、きちんとした説明を求めることだ。「業績予想の修正そのものは悪いこととは考えていない。問題は、なぜ予想が変わったのかについて投資家の納得感がないこと。そこで、企業に対して業績予想の前提条件やその根拠について丁寧な説明をお願いするとともに、引受証券会社や監査法人にも情報開示に関して協力をお願いしている」(渡邉氏)

上場のハードルは上げず
不適切な取引に厳しく対処

 2015年4月~ 6月に行われたIPOの上位10件のうち、上場直後の初値から7月3日の終値までの騰落率を見ると、市場平均を上回ったのは3件(図表6)。この結果をどう見るかは判断が分かれるところだが、IPO市場が以前にも増して「いかに超短期で売り抜けるか」という場になっているというのはうがった見方だろうか。

 日本取引所グループの3月31日の提言では、上場時期の集中の緩和についても触れていた。東京証券取引所上場部企画グループ調査役の池田直隆氏が説明する。「企業の決算時期などの影響で、IPOはどうしても構造的に12月や3月に集中しやすい。2014年は80社中28社が12月に集中した。報道では、この集中によるIPO銘柄の売買の短期化が指摘されている。投資家が初値付近で短期で売買して、次々と新しい銘柄に乗り換える。その結果、上場直後は比較的売買が活況で流動性も高いが、しばらく経つとほとんど売買がなくなるという状況が見られる。また、集中により、市場関係者におけるリソース不足が生じるといった点も指摘されている。そこで、IPOの集中状況について事前に証券会社に通知して、できる限り配慮してもらえるよう要請することとした。」

 政府は成長戦略の一環としてIPO市場の活性化を挙げている。投資家に不利益をもたらすようなIPOが増えると市場が信頼を失いかねない。一方で、「上場基準の厳格化」という方針が一人歩きして、企業がIPOに対して及び腰になってしまうことも望ましいことではない。東京証券取引所の渡邉氏はあらためて強調する。

 「取引所としては、上場のハードルを不必要に上げることは決して意図していない。あくまで不適切な取引に対する監視を強めるということ。成長する企業にリスクマネーを供給することがIPOの重要な使命であり、今回の取り組みは信頼の確保を通じて、持続可能なペースでIPOを増やしていくことを目的としている。市場に過度な規制をかけるのではなく、悪いところにピンポイントで対応するということだ」

ルール整備と企業のIPO後の成長戦略

 IPOをめぐる問題では、業績予想の下方修正や不正取引とは別に、株取引そのもののルールに対する疑念も指摘される。経済産業省の「企業報告ラボ」で座長を務める一橋大学大学院国際企業戦略研究科准教授の野間幹晴氏は、「証券会社系のベンチャーキャピタル(VC)が多額の出資を行った企業のIPOで、同系列の証券会社が主幹事を務めることがある。利益相反の可能性があるだけでなく、ベンチャー企業の持続的成長や企業価値向上を阻害している可能性もある。証券系のVCが投資した企業のIPOで、同系列の証券会社が主幹事になることについてルール整備が求められる」と話す。

 IPO後の成長戦略を描ける新興企業が少ないことも、IPO後の株価が下がりやすい理由の1つだと野間氏は指摘する。「上場後に成長が鈍化する企業が多いが、本来は上場後の姿勢が問われるべきで、VCもIPOに向けた支援より、IPO後の成長戦略やガバナンスへの支援こそが必要である。ベンチャー企業のイグジット(出口)には、IPOと既存企業によるM&Aがある。2014年、米国でのIPOは115件だったのに対してM&Aは459件に達しており、M&Aがベンチャー企業の出口戦略として重要な役割を担っている。日本企業も、IPOをイグジットと捉えるのではなく、IPOのその先にゴールを設定するようになれば、IPOや新興市場の活性化、健全化にもつながるのではないか」

 日本取引所グループが上場審査の厳格化の方針を打ち出してから3カ月余り。東京証券取引所の渡邉氏はその影響について、「今のところ、我々が心配していたIPOの萎縮は見られない。『今年は上場をやめておこう』というような動きは現時点では把握していない」と言う。株式市場は投資家からの信頼なくして成り立たない。目先のIPOの件数を増やすためにグレーな取引を黙認するより、たとえ目先のIPOが減ったとしても企業や証券会社、取引所などがそれぞれの立場でIPOの健全化に取り組んだ方が、長い目で見れば市場全体の利益になることは論を待たない。