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J-MONEY2019年12月号 注目記事

J-MONEYフォーラム

「海外不動産」の魅力と新たな可能性

債券などの代替アセットとして、今や不動産はポートフォリオに欠かせない重要なアセットクラスとなっている。国内不動産投資の人気の高まりを受け、海外不動産に注目する機関投資家も増えている。本誌は、2019年10月16日に東京において「J-MONEYフォーラム」を開催し、海外不動産運用の専門家がその投資魅力やポテンシャルなどを語った。当日の概要を紹介する。

市場透明度の上昇で
不動産投資も活発化

 
 基調講演は、日本大学経済学部教授の中川雅之氏が「海外不動産投資の現状と課題」と題して行った。

 中川氏は、「アルゼンチンの社会学者でグローバル都市論などが専門のサスキア・サッセン氏が唱えた『国の経済力の源泉は、高度な専門サービスの供給やグローバルの経済活動にアクセスできるかなどの機能の有無にかかっている』との学説は、世の中が製造業中心から、第三次産業や知識集約産業の社会に移行する中で基本的には正しいだろう」との考えを示した。

 グローバル都市化には大きく2つの戦略があり、オリンピックなどの世界的なイベントを契機に大きな建物の建設やハード環境の強化する「メガイベント戦略」は、その後の施設の遊休化を招く可能性もあり、グローバル都市化につながらないケースもあると述べた。

 もう1つの「環境整備戦略」は、国際的に発展が可能なビジネス環境整備や不動産取引を行い得る制度整備が、グローバル都市化への大きなファクターになるとの見地に立った戦略だ。


日本大学経済学部教授
中川雅之氏

 中川氏は、2010年代に公表された「各国の商業用不動産資産の将来予想」の研究論文を挙げ、「この論文では、2021年、2031年にはアジア太平洋地域の発展途上国の商業用不動産資産が大きく伸びるとの予想がされていた。しかし、国際不動産投資の全体量を示した実際の統計資料では、米国、カナダ地域が大きなプレゼンスを有していた」と解説。この理由の1つとして、「市場成熟度が不動産投資環境を左右する」との見地から分析したKeogh&D’Arcyの論文を引用し、「投資家の目線は、透明な市場環境が整備されているかということに注がれている」と指摘した。

 中川氏は、世界の不動産市場に関する透明度を数値化した、総合不動産サービス大手のJLLとラサールインベストメントマネジメントの「不動産透明度インデックス」などを用い、市場の透明度と海外不動産投資の量の関係を分析した論文をもとに、「全世界で見ても、基本的に市場の透明度が上がった場合には、不動産投資も活発になるという正の関係にあることがわかった」との結果を明らかにした。

 さらに、「現物不動産インデックス」「規制」「コーポレート・ガバナンス」について、特に投資家が注目している点も指摘。「規制については、政府高官の意思で規制が変更されないか否か、その予見可能性を含めた点に注目が集まっている。コーポレート・ガバナンスへの注目の高さは、企業統治の基準が低い国ほど、そのリスクと引き換えに大きな投資が行われている可能性がある」との分析を語った。

 中川氏は、「海外不動産投資を行う場合、先進国・新興国を問わず、透明度などの様々な指標を確認した上で投資判断を行うことが重要だ」とアドバイスした。

リスクをコントロールした
成長性重視型の投資が重要


フィデリティ投信
シニア・プロダクト・ストラテジスト
永井 基志氏

 続いて登壇したフィデリティ投信シニア・プロダクト・ストラテジストの永井基志氏は、「フィデリティのヨーロッパ不動産源泉投資」をテーマに講演した。日本の投資家が欧州不動産に分散投資する意義について、「ユーロ圏には東京と同程度の市場規模を持つ都市が複数あり、景気サイクルやリスク・リターン特性が異なる傾向にある」点を挙げた。

 ファンドの運用では、不動産投資に伴うインカム収益の獲得に重点を置くとともに、クオンツモデルなどの定量分析に加え、株式・債券運用の専門家とのディスカッションにより投資物件を厳選する自社のアプローチを紹介した。ファンドのベンチマークであるMSCIインデックスとの比較について永井氏は、「過去5年間では、英国や北欧、中東、スイスなどへ資金分配しないことで非保有効果を得ている点と、ドイツ、フランス、ベネルクスについてウェイトを上げている点」を強調した。


M&Gインベストメンツ
代表取締役
城山 太郎氏

 次に登壇したM&Gインベストメンツ代表取締役兼機関投資家営業統括の城山太郎氏は、「長期安定インカム不動産投資の魅力」について語った。城山氏は、親会社の英国プルデンシャルが1850年代から不動産運用を行っており、「特に、長期で安定したインカム収益が期待できる不動産投資に注力してきた」と、これまでの運用実績を述べた。

 不動産ファンドの運用は、優良物件への投資が基本で、リース期間が超長期であることとともに、家賃がインフレ連動の契約になっていることから、家賃は固定率で上昇するか、上方改定のみとなる仕組みになっている点を説明。さらに、年金基金や生命保険会社など、非常に長い期間債務プロファイルの見直しを行う機関投資家において、同社のファンドが負債対応の運用として活用されていると語った。


アクサ・インベストメント・マネージャーズ
機関投資家営業部
ディレクター
井部 秀高氏

 続いて、アクサ・インベストメント・マネージャーズ機関投資家営業部ディレクターの井部秀高氏が、「アクサ欧州不動産コア戦略」と題して講演した。同社では、不動産市場へ全方位的に向き合い、あらゆる投資機会を獲得する“360度アプローチ”を採用しており、エクイティ、デットともに運用資産残高を積み上げている。

 欧州最大級の不動産投資家であるアクサグループは、コア不動産の運用では30年以上の実績がある。2015年には、複数の不動産・投資家を対象とする私募形式の運用プロダクトである「コミングル・ファンド」を設定。外部投資家に対して、アクサグループとの共同投資の機会を提供している。

 井部氏は、市場環境を踏まえた「アクサ欧州不動産コア戦略」の3つの取り組みを説明。1つ目は、「立地」にフォーカスし、ダウンサイドリスクを抑えていること。2つ目は、賃料動向を考慮した市場分析により、インカム収益の維持向上に努めていること。3つ目は、相対取引の活用だ。これにより、取引競争の回避を行っていると述べた。


プリンシパル・リアルエステート・ インベスターズ
最高経営責任者
トッド・エバレット氏

 プリンシパル・リアルエステート・インベスターズ最高経営責任者のトッド・エバレット氏は、「米国不動産へのアプローチを考える」と題し、自社のプライベート・デットとコアプラス・エクイティによるリターン向上の取り組みを説明した。

 エバレット氏は、足元の不動産市況や景気サイクルに対応する運用手法として、投資対象の選別によりリスクをコントロールした成長性重視型の投資が適していると指摘。同社のプライベート・デットには、「信頼度の高いインカムフロー」「継続的なイールド」「地域の分散」などの特徴が備わっていることを挙げた。

 また、コアプラス・エクイティの事例紹介では、「単にコア資産を購入するだけでなく、『開発』という第2フェーズを加えることで、イールドを高めている」と説明した。

ドル円相場の均衡レートは
円安の方向に動く可能性も


JPモルガン・チェース銀行
市場調査本部長
佐々木 融氏

 特別講演として登壇したJPモルガン・チェース銀行市場調査本部長の佐々木融氏は、「令和時代の為替相場を語る」との演題で講演し、長期的にドル円の均衡レートが円安方向へ転じる可能性を示唆した。

 佐々木氏は、2017年、2018年、2019年と円相場の年間レンジが10%以下で変動しているデータを示し、過去に比べてドル円相場が大きく動かない傾向にある理由を2つ挙げた。

 1つ目は、海外投資家が投機的な円ショートポジションを造成しないことだ。これまで、景気のいい時期には、海外投機筋が円を売って高金利通貨を買うキャリートレードを行い、リスクオフとなったときに円を買い戻す動きが起きたため、ドル円相場の変動幅が大きくなる傾向にあった。「ただ、現在では、海外投資家の間で円が歴史的な割安水準にあるという考えが定着しており、景気のいい時期に円を売らなくなったため、円を買い戻す必要もなくなっている」と述べた。

 2つ目は、日本の投資家がドルを売って大規模な対外投資を続けていることだという。一般的に通貨が割安かどうかの判断には、2国間の物価上昇率の差も加味される。「平成時代は日米のインフレ率の差が大きかったことから、ドル円の均衡レートが下がり、円高が当たり前だった。しかし、足元では、インフレ率の差の縮小で均衡レートが横ばいになりはじめている。場合によっては、これが上昇に転じる可能性がある」との分析を示した。

 佐々木氏は、上昇の可能性を高める材料として、「日本の対外直接投資の増加」と「日本の経常収支の構造変化」を挙げた。

 日本の対外直接投資は、アベノミクスが始まる前までの5年間の平均で約7.9兆円だったが、アベノミクス以降は、平均15兆円まで拡大。さらに、円売りを伴う外国証券投資も2018年に15.6兆円と大幅に伸びており、円を売って海外に投資するという状態が続いている。

 一方、日本の経常収支の構造変化について佐々木氏は、「近年、黒字の内訳が貿易収支から所得収支の黒字に変化したことにより、過去、輸出企業などで行われてきた円の買い戻しの必要性が減少した。さらに、所得収支のかなりの部分が再投資されていると予想されることから、円が買いに戻されていない可能性がある」と指摘した。

 佐々木氏は、日本の構造変化の一番の背景には、日本銀行のマイナス金利政策やイールドカーブコントロール政策による長期金利のマイナスがあるとしつつ、「景気がスローダウンした際には、日銀がこれ以上の緩和策を取りにくいため、景気後退局面には政府が財政出動する可能性が高まる。これに伴い、円の通貨価値が落ちはじめるとともにインフレ率が上昇することで、ドル円相場の均衡レートは円安の方向へ動く可能性がある」との見方を示した。