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企業のサステナビリティ経営を支援

J-MONEY2019年10月号 注目記事

特別誌上座談会

「DBJ評価認証型融資」で
企業のサステナビリティ経営を支援

日本政策投資銀行(DBJ)は、独自のスクリーニングシステムによって①環境 ②BCM(事業継続管 理) ③健康経営──のそれぞれの取り組みに優れた企業を評価・選定し、その評価に応じて融資条件 を設定する「評価認証型融資制度」を強化している。同制度の現状と意義について、同行担当者と内 外のサステナブル金融に詳しい高崎経済大学 経済学部 教授の水口剛氏が語り合った。(取材日:2019年8月5日。コーディネーター:J-MONEY編集長 柴田哲也)


■出席者(写真左から)
日本政策投資銀行 サステナビリティ企画部長 木村 晋
高崎経済大学 経済学部 教授 水口 剛
日本政策投資銀行 サステナビリティ企画部 課長 環境格付主幹 八矢 舞子
日本政策投資銀行 サステナビリティ企画部 BCM格付主幹 蛭間 芳樹
日本政策投資銀行 サステナビリティ企画部 健康経営格付主幹 橋本 明彩代

非財務評価を融資条件に反映

──DBJが企業のサステナビリティ支援に力を入れる背景は。

木村 DBJでは、現在進行中の第4次中期経営計画以降、社会の持続的発展に貢献する「サステナビリティ経営」を改めて使命として掲げ、取り組みを強化している。経済価値と社会価値の長期的な両立を追求するスタンスは、時代は変われども一貫するDBJの経営 姿勢だ。

 具体的なサービスとしては、長期のファイナンスを検討するにあたって、企業の非財務情報に着目して潜在的な価値に光を当て、顧客の長期的かつ持続的な成長をサポートする取り組みを企図している。

──企業の非財務情報をベースに投融資する手法は、海外ではどのような状況か。

水口 非財務情報を考慮した投融資自体は以前から行われていたが、国際連合が2006年に責任投資原則を公表したことで、「ESG(環境・社会・ガバナンス)課題への対処は金融業界関係者のリスクマネジメントと社会的責任」との理念が世界中に広まった。投資対象資産も株式から債券やインフラ資産などへと広がりをみせている。最近では、グリーン・ローン原則やサステナビリティ・リンク・ローン原則など、融資にもESGを組み込む動きが始まっている。

 ところが、このサステナビリティ・リンク・ローン原則の仕組みを詳細に見ると、DBJが以前から提供している「環境格付融資」によく似ている。ESGは株式投資の世界では欧米が先行して日本が後から追いかける構図だが、こと融資をベースにした金融商品や企業支援に関しては、日本のほうが進んでいたことに一周回って気がついた状況といえるだろう。

木村 DBJでは、40年以上の環境対策事業に対する3兆円以上の投融資実績で培った知見を基に、2004年に環境格付融資、2006年に「BCM格付融資(2011年に防災格付融資から現名称に変更)」、2012年に「健康経営格付融資」を開始した。いずれの評価認証型融資とも、非財務評価を融資条件に反映させる世界初の試みと言える。

直接対話を重視した評価プロセス

──DBJの評価認証型融資の特徴は。

木村 企業との直接対話を重視した評価プロセスだ。我々は特定のプロジェクトやアセットではなく、企業全体を評価させていただいている。お客様との対面ヒアリングでは、スクリーニングシートで浮かび上がった論点のほか、企業戦略全般における位置づけやPDCAサイクルの現状など、公表情報だけでは判断しきれない内容をお客様に直接確認している。

 格付評価決定後の対話にも注力している。お客様の希望に応じて第三者の視点からフィードバックを対面で行い、今後取り組むべき課題の把握や経営の高度化に向けてサポートしていく。環境、BCM、健康経営の3つの格付融資とも評価項目は100前後あるが、内容は都度見直し、ときどきの社会経済情勢にふさわしい観点にブラッシュアップしている。

──DBJの評価認証型融資の累計実績は、3つの格付合わせて1184件、融資金額は2兆577億円にのぼる(2019年3月末時点)。件数の半数以上は環境格付融資だ。

八矢 環境格付融資は2004年に始まった3つの中で最も歴史ある商品であり、継続的に改訂を重ねてきている。企業の環境活動は、かつては環境方針や環境目的の達成に向けて環境負荷低減に取り組む、いわば守りの環境対策が中心であったが、DBJは環境配慮製品・サービスの開発・拡販に向けた取り組みなど、環境価値拡大と企業成長の同時実現を目指す、本業と一体となった環境活動を重視している。

 加えて、2014年度には評価基準を大幅に見直し、マテリアリティやKPI(重要評価指標)といった概念を評価の視点に盛り込み、一律網羅的の項目で評価するのではなく、それぞれの事業戦略やリスク・機会を踏まえて特定された重要な環境・CSR(企業の社会的 責任)課題について、企業実態に応じた取り組みを評価できるように改訂した。さらに2018年度より評価体系を「環境経営」と「サステナビリティ」に区分し、従来の「環境経営」に加え、気候変動をはじめとする環境・社会課題の顕在化や事業環境の変化に対し、企業がどのように長期戦略を描き、持続的な価値創出・拡大を図るかについても評価し、対話を通じて取り組みをサポートしている。

水口 1996年にISO14001と呼ばれる国際規格ができて、環境マネジメントシステムという考え方が登場した。ISOは国際標準化機構であり、当時は環境経営を標準化しようという発想だった。その後、環境問題への理解が深まり、ある企業はCO2削減、別の企業は原材料調達など、企業によって異なる重要課題が認識されるようになった。公開情報を一律の基準でチェックするだけでは、企業の環境経営や持続可能性を正しく評価できない時代といえるだろう。DBJの環境格付融資が、企業の個別性を重視しつつ、対面でのヒアリングを通じて潜在的な成長力を見極めるのは現代にふさわしい手法と位置付けられる。

──評価認証型融資で累計件数が2番目に多いBCM格付融資は、どのようにして企業のBCM(Business Continuity Management:事業 継続管理)を評価するのか。

蛭間 地震・雷・火事・親父の時代から、最近は自然災害、台風・豪雨、サイバーテロ、感染症、地政学、気候変動などリスクが変化している。一方で、災害や危機の原因は、我々自身にあり、ハザード(災害素因)に対する脆弱性が、被害を拡大させている。東日本大震災や原子力発電所事故の事例を出すまでもなく、企業の事業継続、供給責任を脅かすリスクは、多種多様で複雑化している。  

 BCM格付は、そのような有事の危機対応力を、どのようにして事前に準備し、その実効性を高めているかのマネジメント状況を問う。評価項目は、人命や安全の確保、事業資産の損害を最小限にとどめる「防災」と、供給責任を果たすべく中核事業の継続を実現する「BCM」の双方で構成されている。具体的な評価項目としては、耐震化対策、初動対応訓練の実施、事業継続の戦略策定、サプライチェーン管理などが挙げられる。

 「地域 BCM・地域復興への貢献」も重要な評価ポイントだ。2019年4月にBCM格付を取得した九州地方の半導体製造会社は、同じ県内の同業他社間での情報共有の仕組みを構築していることや、業界内での共助を通じた地域BCMの高度化に向けた検討を進めている点などを評価させていただいた。

水口 地域や業界内の共助を評価する視点は興味深い。例えば、サプライチェーンにおける豪雨や水害のリスクは年々高まっており、危機発生時は個別企業だけで対応するのは難しい。復旧までのスピードは、地域や業界での協力体制が大きく影響するだろう。

 BCM格付融資の取得企業が増え、様々な地域・業界で共助の取り組みが広がれば、社会全体のリスク低減と持続可能性の向上につながるはずだ。また、BCM格付は危機管理に優れている証でもあるため、将来にわたる取引相手にふさわしいとの企業ブランド向上効果も見込める。

優秀な人材確保へのアピールにも

──3つ目の健康経営格付融資は 2012年スタートとDBJの評価認証型融資の中では最も新しい商品だが、 2018年度の1年間では取得企業が一 番多かった。

橋本 ここ数年、人手不足や長時間労働の社会問題化などを背景として、企業と働く人の関係が構造的に変化しつつある。その中で、中長期的な成長を支える基盤として健康経営に取り組む企業が増えてきている。企業側には、働き手から選ばれるような、健康や働きがいにも配慮したチャーミングな職場づくりが求められているのだ。  

 DBJでは、従業員の心身の健康維持・増進と企業成長の同時実現を目指す、各社の戦略と一体となった健康経営の取り組みを重視している。評価項目は、労務管理・安全衛生上のリスクコントロールを問う「健康管理」と、予防医学的な健康面と組織の活性化に向けた働き方の双方の視点で、企業価値向上に 資するアップサイドの取り組みを問う「健康経営」から構成される。

 2019年4月に健康経営格付を取得した家電専門小売企業は、社長をトップとする部門横断的な健康推進体制のもと、心身と働き方に関する多様なデータ分析を踏まえた生活習慣改善施策の取り組みやFA制度など働きがいを向上させる仕組みを有している点などを評価させていただいた。

水口 人手不足が深刻化する中、優秀な人材の確保は企業の持続的成長に欠かせない。健康経営格付は、従業員を大切にする企業であることを広くアピールする有効な手段といえる。

 企業のサステナビリティ経営の最大の課題は、大規模災害を引き起こす「気候変動」と社会不安を増幅する「経済格差」だろう。気候変動はCO2を減らすことが大事だが、経済格差の拡大は何に配慮すれば止められるのか誰にも分からない。ただし、人々が健康で長く働けるようになれば、定期収入の道がひらけ、経済全体を合理的に底上げできる可能性がある。健康経営格付は、社会の安定性と持続性を高めるポテンシャルを秘めた取り組みといえる。

──DBJの評価認証型融資は、企業と日本社会全体のサステナビリティのレベルを上げる効果が見込めそうだ。

木村 我が国の産業界も、気候変動や人口減少、技術革新など大きな外部環境変化の中で、経営の時間軸を伸ばしてリスクと機会に向き合う必要がある。DBJは長年にわたって長期のリスクマネー供給に携わってきたが、環境・BCM・健康経営の3格付で構成する評価認証型融資には、お客様との対話を通じたノウハウが詰まっている。経営規模や業種を問わず、非財務の取り組みを通じて持続的な価値創造を目指す様々な企業にご活用いただきたい。