近年拡大を続けるオルタナティブ投資は、伝統的な株式投資や債券投資と異なり、投資家、運用会社、ファンド、アドミニストレータなど多岐にわたる関係者との調整や知識・ノウハウが必要となる。PwCでは、オルタナティブ投資に携わる機関投資家や資産運用会社が直面する課題の解決に向け、会計監査、税務や法務、アドバイザリー業務などを専門とするプロフェッショナルが国内外で連携し、多種多様なサービスを提供している。(取材日:2018年7月11日)

PwC
PwCあらた有限責任監査法人 第三金融部(資産運用)パートナー
PwC Japanグループ 資産運用インダストリー・リーダー
清水 毅氏(左)
PwCルクセンブルク法人 パートナー/マーケット・リサーチ・インスティチュート・リーダー
ダリウッシュ・ヤズダニ氏(中)
PwCシンガポール法人 パートナー
PwCアジア・パシフィック 資産運用リーダー
ジャスティン・オング氏(右)

2016年から2020年まで年8.5%の拡大を見込む

世界と日本におけるオルタナティブ投資の現状について。

ヤズダニ かつて、年金基金などの機関投資家の多くは、先進国のソブリン債を主要な資産として利回りを享受してきた。世界金融危機以降は、一部の国では長期金利がマイナスになるなど、債券投資では十分な利回りを得られなくなったため、投資家はポートフォリオの見直しを迫られてきた経緯がある。

米国ではそれより前の1990年代から、当時FRB(米連邦準備理事会)理事長だったグリーンスパン氏が低金利政策を推し進めたことで、債券からオルタナティブ投資へのシフトが見られ、その流れは金融危機によって大幅に加速することとなった。ファンドに関する複数の調査会社のデータによると、世界の年金基金のポートフォリオに占めるオルタナティブ投資の割合は1997年時点で4%にすぎなかったが、2017年には25%に伸びている。

今後もオルタナティブ投資は拡大を続けるだろう。2012年から2016年までの4年間で、世界のオルタナティブ投資は年11.8%の拡大となったが、PwCでは2016年から2020年の4年間についても、年8.5%ほどの拡大を見込んでいる。資産規模では、2016年の10.1兆ドルから、2025年には21.1兆ドルの規模になると予想している。

オルタナティブ投資が拡大すると考える理由は、主に以下の3つである。1つ目はポートフォリオの分散化が図れること。2つ目はリスク調整後のリターンについて、伝統的な債券投資や株式投資以上のパフォーマンスを狙えること。3つ目は、非流動性によるプレミアムの存在だ。とりわけ年金基金にとって流動性はさほど重要でないことを背景に、年金による非流動性資産への投資が増えている実態がある。

オング アジア太平洋地域においても、欧米と同様にオルタナティブ投資へのシフトが起きている。もともと不動産投資のボリュームが大きかったが、近年ではインフラ投資が盛んだ。

この地域におけるオルタナティブ投資の問題点として、対象となる資産の供給が少ないことが挙げられるが、現在は金融セクターやソブリンウェルスファンドのオフバランス化がトレンドとなっている。つまり、彼らが運用していた資産が売りに出されているということだ。以前と比較すれば、機関投資家にとってオルタナティブ投資を行いやすい環境だといえる。

清水 日本では、世界最大の機関投資家であるGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が資産全体(平成29年度末で約156兆円)のうち5%を上限として、インフラやプライベート・エクイティ(PE)、不動産などオルタナティブ資産に対する投資を増やすと公表しており、実際に組成が始まっている。政府系大手銀行も、オルタナティブ投資の推進を掲げ、2020年までに投資残高を5~6兆円まで増やすと言っている。債券の利回りがマイナスに推移するなかで、オルタナティブ投資の存在感が増しているのが現状だ。