マクロ経済 日本へのインフレ圧力の波及は限定的
世界各国で加速する消費者物価上昇率
世界各国で物価上昇率が加速している。原油や非鉄金属、穀物など国際商品市況の高騰が続いている影響が大きいが、新型コロナウイルス禍からの需要の回復過程で物流網が混乱していることも一因である。2021年11月の消費者物価指数の前年比上昇率を見ると、米国は6.8%、ユーロ圏は4.9%とともに高い伸びを示した。原油高などの影響を除いた「食料・エネルギーを除く総合指数」の上昇率も、米国が4.6%、ユーロ圏が2.6%とFRB(連保準備制度理事会)やECB(欧州中央銀行)が物価目標とする2%を上回っている。
日本においても物価上昇の動きが散見される。2021年11月の企業物価指数の前年比上昇率は9.0%と1980年12月以来の高い伸びを記録した。また、同月の消費者物価指数(総合)も前年同月比0.6%の上昇と3カ月連続でプラスとなった。同指数は新料金プランの導入に伴う携帯電話通信料の大幅下落によって1.48ポイント押し下げられており、この影響を除くと日本の消費者物価上昇率も2%に達したとみることができる。
国内消費者物価の上昇要因は主にエネルギー価格の高騰
もっとも、世界的なインフレの流れが日本国内にも波及するとみるのは早計だ。携帯電話通信料を除く消費者物価の上昇率(11月は2.1%)のうち、上昇に寄与しているのは電力料金などのエネルギー(プラス1.07ポイント)と、前年の「Go To トラベル」によって下落した宿泊料の反動(プラス0.34ポイント)が主因である。
この要因を除くと2021年11月の消費者物価上昇率は0.7%に過ぎない。食料を除けば0.3%の上昇とほぼ横ばい圏である。「食料・エネルギーを除く総合指数」の上昇率が4%を超えている米国とは大きく異なる。
最終製品への価格転嫁は一部にとどまる見通し
このところの原材料価格の高騰を受けて、2022年春にかけて値上げを表明している企業も少なくないが、小売り段階での価格転嫁は容易ではない。賃金が伸び悩む日本では値上げに対する消費者の抵抗感が強い上に、コロナ禍で消費に慎重な傾向が根強く残っているためだ。
コロナ禍からの景気回復が遅れていることも値上げが浸透しにくい理由である。コロナショックからの回復で先行する米国では、実際の需要と潜在的な供給力の差である需給ギャップがほぼ解消されており、これが足元の物価を押し上げる一因となっている。しかし、新型コロナへの対応の遅れで景気の停滞が続いた日本では依然として大幅な需給ギャップが残っている(図表)。
【図表】日米の需給ギャップの推移と見通し
2022年度は経済活動の正常化に向けた動きが続き、個人消費も回復基調を維持するとみられるが、同年度の最終四半期(2023年1~3月)でも1%弱の需給ギャップが残る見通しである。2022年4月には携帯電話通信料の値下げによる影響一巡で、消費者物価上昇率は1.5%を超えてくると予想しているが、一方でエネルギーの上昇率は今春がピークになる可能性が高い。全体の上昇率は夏頃から鈍化してくるとみられる。需給ギャップの解消にも時間を要するため、物価上昇圧力は2022年度も弱い状態が続くと予想している。