長期リターンがプラスなら、短期リターンが一時的にマイナスでもかまわない

辰巳憲一
学習院大学名誉教授
辰巳憲一
1969年大阪大学経済学部、1975年米国ペンシルベニア大学大学院卒業。学習院大学教授、London School of Economics客員研究員、民間会社監査役などを経て現在、学習院大学名誉教授など。投資戦略、ニューテクノロジーと金融・証券市場を中心とした著書・論文多数

従来からある財務情報だけでなく、環境(E)、社会(S)、企業統治(G)の3要素が様々な形で投資決定のプロセスに絡んで投資判断に組み込まれているのがESG投資であった。ESG投資は、投資である以上、採算を度外視した慈善活動にとどまるのではなくサステナビリティとリスク・リターンの3軸のバランスを取り、投資の持続可能性を高めなければならないのは当然である。

ESGが、社会的価値を向上させるのであればリターンがマイナスになってもかまわないと表現すれば投資理論の枠外にあるように聞こえる。一方、長期リターンがプラスなら、短期リターンが一時的にマイナスでもかまわないと言い換えれば投資理論、それも長期の投資理論だ。

ESG投資のメリットとデメリット

ESG投資のメリットはよく知られているように大きく分けて図表の2つがあるが、デメリットが3つある点もまず押さえておこう。

【図表】ESG投資のメリットとデメリット

図表

ESG活動のコストの影響

企業がESGを意識し過ぎた行動を採るあまり、株式投資のリターンが小さくなってしまう可能性があることには注意するべきだろう。

企業が環境に配慮した事業を展開する場合、事業のタイプによっては莫大なコストがかかる場合がある。設備投資や研究開発に莫大なコストを投じざるを得なくなることにより、一時的であれ、その企業が生み出す利益が小さくなってしまう。そのため見かけ上業績が悪化したように見え、株価が下落してしまう。

それゆえ、ESGの要素が優れているからという簡単な理由で投資先を選んでしまうと長期的なリターンを損ねる可能性があると言える。

起こりえるESGの失敗

ESGに配慮した事業の展開に失敗した場合、企業の業績が悪化する可能性についても十分配慮しておかねばならない。

投融資を推奨してもらえない状況に対抗して経営陣が奮起し、ESG活動に積極的になれば、数年後ESG優秀企業リストに掲載されるように転換できるようになる。多くの場合、ここまでのプロセスが宣伝されるに過ぎない。しかしながら、ESG投資が失敗して、その後優秀リストから外されるという悪夢のプロセスが起こりえるのである。

あるいは、次のような失敗のプロセスの方が現実的かもしれない。不適切なESG事業によってESGの成果は小さいままにもかかわらず、投資に要したコストによって企業利益が悪化し、株価が下落する。それによって経営陣が退陣せざるをえなくなるかもしれない。

ESG投資手法の選択

何か1つの現象に対して、多くの銘柄が反応し株価などが共鳴する局面はよくある。こんな時には分散効果は働かない。昨今はESGの動きに多くの銘柄が反応し株価が共鳴するようになっている。こんな時にも分散効果が働かない。少なくとも短期的には分散効果が働かない。しかしながら、インデックス運用は有効になる。

アクティブ運用には、例えば割安株を選ぶ投資がある。アクティブ運用が好調になる背景には、銘柄選択の手腕もさることながら市場環境がある。インデックス運用が不利なときにはアクティブ運用は有効になる、ことが多いので関心を持ち続けるべきだろう。