金融政策
動き出す米国・欧州の金融政策。日本は現状の緩和方針を継続

米国の賃金上昇や設備投資、欧州経済の回復度合いが試金石

加藤 出氏
東短リサーチ
代表取締役社長
加藤 出

2017年の金融政策がどうなるか、先進国を中心にポイントを整理してみよう。

FRB(米連邦準備理事会)が2016年12月に発表した、17人のFOMC(連邦公開市場委員会)メンバーによるドット・チャートの2017年の利上げ回数予想(予想の中央値)は3回、2018年も3回だった(1回あたり0.25%)。実際にそうなるには、①賃金上昇ペースが速まり、物価上昇圧力の高まりが予見されるようになる、②新政権が市場の期待に応える姿勢を維持し、米企業経営者も楽観的になって設備投資を積極化させる、といったことが必要である。

12月の平均時給前年比は7年半ぶりの+2.9%となった。これが+3%を超えていけば米国の賃金上昇の加速は本物となる。しかし、12月は集計上の歪みで押し上げられた可能性があり、実態を見極めるにはまだ時間がかかる。

他方で、12月のFOMCの議事要旨によると、FRB幹部は先行きに不透明感を強く感じており、「不確実性(uncertainty)」という言葉が同要旨に15回も出てきた(ライトソンICAP社の集計によると、2013年以降の議事要旨にその言葉が登場した平均回数は6.6回)。そういえば12月の記者会見でイエレン議長は、市場が17年の利上げ回数を3回と受け止めるのを明らかに嫌がっていた。彼女自身は今年の利上げを2回と予想しているのだと考えられる。

ECB(欧州中央銀行)は昨年12月の理事会で、量的緩和策の実施期間を17年12月まで延長する一方で、毎月の資産購入額を600億ユーロに減額した。ユーロ圏経済は緩やかな回復を見せている。それが18年も続きそうであれば、ECBは年末近くの理事会で、18年の資産購入額を一段と縮小する決定を行うだろう。ただし、今年は欧州で重要な選挙が目白押しだ。それらの結果次第で欧州経済が動揺するリスクもあるだけにそれらの動向に注意すべきだ。

円安・株高の「追い風」のなか、緩やかな利上げが日銀の課題に

日銀は昨年、新たな追加緩和策の導入が事実上困難になり、2016年9月に金融政策の方針を「突撃型」から「籠城型」にシフトさせた。国債などを大規模購入しつつ、マイナス金利政策を-0.1%に、10年金利誘導目標を0%に維持したまま、インフレ率が上昇するのをじっと待つ戦略だ。幸運なことに、そこへグローバル経済の回復とトランプ新政権への期待があいまって円安・株高の「追い風」が日銀に吹き始めた。風がせっかく吹いてきたため、日銀は基本的には、今年は政策変更をせず、昨年9月に決めた方針を維持しようとするだろう。

円レートと原油相場のトレンドが反転しない限り、コアCPI(生鮮食品を除いた消費者物価指数総合)前年比は春頃からプラスに転じそうだ。年後半にかけてその上昇が続く可能性はあるが、日銀が目指している「コアCPIが安定的に2%を上回る」状態には遥かに遠い。

だが、日本に「追い風」が吹いている間に、10年金利誘導目標などをせめて多少は引き上げておかないと、「追い風」がやんで「逆風」が吹いてきたときに、日銀はここからさらに大胆な緩和策を求められてしまう。グラフにもあるように名目GDP比で見た日銀の資産規模はすでに異様な水準に達している。

10年金利誘導目標を秩序だって緩やかに引き上げていくことは、技術的に極めて困難なチャレンジになり得るが、日銀は今年の後半頃からそういった議論を政策委員会で開始すべきだ。先行きの緩和余地を作るためにも柔軟な対応が求められる。