2021年9月の全金融機関の不良債権比率は1年前のほぼ倍に
インドは、金融システムの目詰まりを起こしている不良債権を一掃しようと過去に何度か試みたがうまくいかなかった。今回は、いわゆる「バッドバンク」として「国家資産再建会社(NARCL)」を設立し、不良債権を銀行のバランスシートから取り除こうとしている。問題は、金融システム全体に広がった窮地を救おうと導入したはずの「破産及び倒産法(IBC)」や他の私的整理手続きが失敗した後で、バッドバンクが果たして功を奏するのか、ということだ。
インドではほぼいつものことだが、成否の見通しは不透明だ。成功するかは、バッドバンクの構造、不良債権流通市場の活性化に必須の投資家参加、バッドバンクや不良債権の買い手が問題資産を整理するための法的・私的整理手続きの効率化にかかっている。
バッドバンクの業務は忙しくなるだろう。全金融機関の総融資に占める不良債権比率は2021年9月には13.5%と、2020年9月の7.5%から上昇することが予想されている。
資産の再建・管理機能を併せ持つハイブリッド型
NARCL の構造の詳細はまだ明らかにされていない。しかし不良債権切り離しを焦眉の急とする金融機関は既にラバサ・コーポレーション( Lavasa Corporation)、ロルタ・インディア(Rolta India)、さらにビデオコン・インダストリーズ(Videocon Industries)の石油子会社VOVLなどへの大型で複雑な不良債権をNARCLに売却する準備を進めている。これらは過去数年にわたり法的にも私的にも整理できなかった延滞債権で、総額は50億ルピー(約75億8340万円)を超える。
設立案によると、資産の再建・管理機能を併せ持つハイブリッド型になる。資産管理は民間から集められる査定、整理、税、法律の専門家があたる。
「バッドバンク」が不良債権買い取りに必要とする資金はそれほど多額にはならないだろう。概算すると、NARCLの不良債権買い取り対象は簿価の20%になる見通しだ。買い取り額の15%は現金で支払い、残り85%は5年を期限とする原資産現金化による支払い条件付き担保証券(SR)を発行する。したがって、推定 2 兆ルピー (約3兆327億円) の不良債権買い取りで支払う現金はわずか600億ルピー (約908億6000万円) になる。
NARCLの事情に詳しい銀行筋によると、不良債権買い取り原資の半分300億ルピー(約454億3000万円)は、バッドバンクに資本参加予定の10数行に対し新株予約権付き無担保社債を発行し調達する。残り半分は官民金融機関から融資を受ける。
不良債権をNARCLが一元的に買い取ることにより、債権購入者や外資系ファンドにとっては交渉相手が1つに絞られるため資金回収はこれまでよりは容易になるだろう。関係金融機関が2021年6月初めに集計したNARCLへの売却対象は80件の大型不良債権で、総額2兆ルピー(約3兆327億円)に上っていたが、同9日に明らかになったインド銀行協会(IBA)に提出された売却対象の「最終リスト」では22件、8249億ルピー(約1兆2430億円)までに絞り込まれている。
不良債権の流通市場の活性化に期待
バッドバンクの創設は外国投資家を誘い込む機会となりうる。NARCLは買い取った不良債権をオルタナティブ投資ファンドやその他の潜在的に有望な投資家に売却しようと模索するだろう。正しく行えば、インドにおける不良債権の流通市場の活性化が期待できる。
回収に関する期待には当初債権者と不良債権をディストレスト資産として購入する側では大きな開きがあり、直接売買は考えにくい。しかし、不良債権の大幅割引販売が可能になれば、債務整理の可能性が大幅に高まり、企業再生にも好影響をもたらすことになる。
不良債権処理と私的整理手続きの迅速化がカギ
しかし、そこから不良債権購入者がその処理に長い時間を要するという旧来の問題は残る。
インドの破産及び倒産法は2016年に導入され、当初は企業破綻処理期限を210日としていた。その後330日に修正されたが、厳格な決まりではない。中央銀行であるインド準備銀行(RBI)の最新データによると、2020年9月30日時点で、企業破綻処理にかかる日数は平均433日。こうしたもたつきは、当然のことながら投資家の信頼増幅にはつながらない。
同様に、裁判所を介さない私的整理手続きも概ね失敗している。
NARCLが金融機関から不良債権を買い取る際、買い取り額の85%に対して発行する担保証券には5年限定の政府保証が付与される。不良債権問題の拡大を防ぐためにも、政府はこの期間内に破綻処理か清算手続きを通して、不良債権問題の解決を急ぐべきだろう。
新型コロナウイルス感染の影響で不良債権の急増が見込まれるため、バッドバンクの設立は賢明な策だ。しかしインドは、過去の過ちから学ぶ必要があり、バッドバンクは単に問題を右から左へ移すための手段ではなく、不良債権の解決のための触媒となるべきである。
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