小国は突然過去に経験したことのない規模のSDRを保有する

2020年3月、新型コロナウィルスの感染拡大で人々がパニックを起こし、金融システムから流動性が吸収された。市場は売り一色の展開となり、主要新興国ファンドは強制的清算のリスクにさらされた。それが現実になっていたら、債券や株式はさらに値崩れしていただろう。

しかし、ショックアブソーバー(吸収材)が機能したため、新興国ファンドが崩壊することはなかった。学者たちはデフォルト(債務不履行)に陥る国家が相次ぐと警告していた。20年に破綻したのはアルゼンチン、エクアドル、レバノン、スリナム、ザンビアの5カ国で、過去数十年で最多となったが、恐れられていたよりもはるかに少ない。人々は2008年の世界金融危機からいくつかの教訓を学んだようだ。規制当局はいくらかの引き締めは行ったが、より大きな変化はイージーマネーに対する姿勢であろう。世界は、流動性を供給する方が、時にはより深刻な問題の発生を回避できると得心したのである。

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パンデミック発生から1年たった今、世界の流動性は過去には想像もしなかった規模にまで膨れ上がった。各国の中央銀行は、財政・金融政策の総動員を呼びかけるケインズ学派の大合唱に加わり、市中への資金供給を拡大した。FRB(米連邦準備理事会)に至っては投資不適格(ジャンク)債まで買い入れた。

イージーマネーの1つは、IMF(国際通貨基金)が加盟各国に出資額に応じて配分する特別引き出し権(SDR)。SDRは通貨危機などの際、米ドル、ユーロなどに交換できる低金利の融資枠のようなものだ。IMFによると、2020年2月29日からの1年間で、スリナム、ドミニカ共和国、エクアドルはそれぞれのSDRの90%以上と引き換えに外貨を得た。SDR枠をほぼすべて使い切った国の数は現在、48カ国で、1年前の43カ国から増加した。

IMFは今、6500億ドル相当のSDR増額を検討している。新規配分が実現すれば、各国へのSDR総額はこれまでの3倍近くになる。比例配分でいけば、ドミニカ共和国のSDR保有量は1700倍となり、同国の外貨準備を6.5億ドル押し上げることになる。IMF新規配分では、小国が大きな恩恵を受ける。イラク、南スーダン、チャドは現在ほとんどSDRを持たない国に入るが、突然過去に経験したこともないような規模のSDRを保有することになる。

構造改革を推進しない国への流動性注入は、結局その国を債務まみれに

SDR新規配分では、より大きいいくつかの中米諸国もかなりの流動性を得ることになる。最も大きな配分を受けるのはブラジルとメキシコだ。もっとも両国ともこれまでほとんどSDRに手を付けたことはないので、実態としてはあまり関係ない。一方、ベネズエラには50.7億ドル相当のSDRが割り当てられる。同国にとってこれほど大きな規模の流動性を受けることは融資でもキャッシュでも長年なかった。アルゼンチンは43.5億ドル相当のSDRを得ることになり、今後の債務利払い費に充てられるとみられている。エクアドルは9.75億ドル分のSDRを得ることになる。

REDDインサイトではこれまでSDRの大規模拡大に反対してきたが、それには理由がある。構造改革を推進しない国に流動性を注ぎ込むのは、結局はその国を債務まみれにするだけだから、通常、良いこととは言えない。こうした流動性肥大への懸念については、コロナ渦の中で緊縮財政を行えば経済が破綻するという反対論が必ずある。反対派は、国民ㇸの給付金の支給を優先し、本格的な政策対応は後で、と主張する。

債務圧縮には、流動性供給以外の別の方法があるかもしれない。ソブリン債再編の大御所、リー・ブックハイト氏は、英フィナンシャルタイムズ紙への寄稿で、債務再編の場合、債務者が債務の一部を債権者に返済する代わりに自国通貨で国内の環境改善事業への投資に振り向けることを提案した(記事は2021年3月25日付)。投資家の一部はこの案を前向きに受け止めるかもしれないが、冷笑する投資家も当然いるだろう。

IMF債務が再編不可能なレベルまで膨張すれば、最後は悲惨な状況も

残念ながら、現在のSDR増額を巡る議論のレベルはそれほど高いものではない。

ジョン・ケネディ米上院議員(共和党)は2021年3月24日、上院銀行委員会で行われたSDR増額に関するオンライン公聴会で、ジャネット・イエレン財務長官に対し次のように述べた。「(SDR新規配分のために)なぜ米国の納税者に1800億ドルもの負担を課すことが効率的なのか理解できない。これらの金は(国債を発行し)結局我々が借りなければならないものだ。貧困国を支援するためと言うが、貧困国に向かうのはその10%にしか過ぎない。それよりも多くの割合の資金が、ロシアや中国に振り向けられるのである。当座預金口座に眠ったままの金などない」。

中国が新規配分されるSDRを米ドルに「交換」することは明らかにあり得ない。中国は、1.1兆ドルの米国債を保有し、すでに多くの米ドルリスクを背負っている。そして現在、中国のSDR配分枠は20.3億米ドル相当の超過となっている。言い換えると、中国は現在、SDRを他の主要通貨に交換するのではなく、外貨を必要とする他国のSDR交換要請に応じている状態なのである。最後に、SDRの取引は双方の自主的なものであるため、例えば、米国が反米左派のマドゥーロ大統領が率いるベネズエラから新規配分のSDRを受け入れて資金を提供することは考えにくい。

今のところ、SDR新規配分計画は実現に近づいているようである。宗教団体、貧しい国々、債務を抱える国々、債権国の一部はみな、流動性が拡大するよう願っている。IMF債務が再編不可能なレベルまで膨張すれば、最後は悲惨な状況に陥ってしまうかもしれない。しかし今は、まともな懐疑論者の声は、ケネディ議員のような何もわかっていない人々によってかき消されてしまい、結局のところSDR新規配分はおそらく実現するだろう。

スティーブン・ボッツィン(Steven Bodzin)ニューヨーク

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