富国生命投資顧問 林 宏明
富国生命投資顧問
常務取締役
林 宏明

高速回転売買が促す無節操な相場展開

AI(人工知能)やロボティクスを使った自動化が経済・産業構造の中でかなり大きな存在感を示し始めているが、金融市場でもAIを使った高速回転売買が先進国の株式市場で大きな割合を占めており、相場変動の主役となっている。日経平均株価が1000円下落した翌日、大した材料もない中で1000円上昇するといったことや、ニューヨークダウが1600ドル急落して翌日1600ドルの急騰となるなどの無機質な相場展開となったりするのも、このAIによる高速回転売買が主因だと考えられる。

人間だけの思考による相場であれば、このような無節操で無機質な相場展開はあり得ないだろうが、AIが様々なアルゴリズムによって瞬時に判断していくとこのようなメリハリの効き過ぎた展開になるのであろう。まさに2020年の3月~4月の新型コロナウイルス感染拡大によるコロナショック相場の際に起きた金融市場の乱高下は、AIが人間社会を翻弄する形になっている側面があると言える。

再考ESG投資

もちろんAIを開発したのも人間であるし、様々なアルゴリズムを設定したのも人間であるが、個々のAIのディープ・ラーニングもあり、もはやAIやアルゴリズムに直接関わった者でさえ、詳細にAIの行動を予測することは不可能であるという話を聞いたことがある。

捕った獲物はその日のうちにすべて食べる

その時、ふと想起したのは、だいぶ前に読んだ人類学の研究の本の内容であった。それは今から3万年以上前の旧石器時代の人類の話で、彼らには、明日や将来や未来といった概念が全くないということであった。旧石器時代の人類は狩猟によって毎日獲物を捕り、それをその日のうちにすべて食べて、歌って踊って、飲んで楽しく一日を完全燃焼する。

そうしないと、いつ猛獣に襲われてしまうかわからないからである。このことは、現在でも旧石器時代と同じ生活様式で生活しているアフリカのいくつかの部族の研究の中で導き出された研究成果だそうだ。

このあたりのことが、何となく現在の金融市場を席捲しているAIの投資行動に似ているなと思ったわけである。現在の無機質で極端で享楽的な金融市場の有り様は、まさに人類が本格的な歩みを始めた旧石器時代時代の人類そのものではないかと。

【図表】AIの投資行動と旧石器時代の人類の共通点

【図表】AIの投資行動と旧石器時代の人類の共通点

アルゴリズムもあえて極端に言えば、獲物と言えるアルゴリズムと襲ってくる猛獣というアルゴリズムに分けられる。獲物に相当するアルゴリズムにヒットすれば、それを存分に食べて、歌って、踊って、飲んで楽しみまくり、襲ってくる猛獣に相当するアルゴリズムにヒットすれば、一目散に遁走する。これが旧石器時代の人類と同じフェーズにいると私が考えているAIのデフォルメ的投資行動である。世界的に実体経済とは大きく乖離した規模で莫大な超金融緩和マネーが供給されていることが、この傾向をさらに強めているかもしれない。

そうだとすると、将来予測機能を本旨とする金融市場にとっては由々しき事態ではないかと思う。本来、金融市場はかなり長期スパンでの将来予測機能を有するとともに、それに随伴して未来の人類にとって有用な分野への効率的資源配分を可能にするといった機能も有するものである。それがAIによる高速回転売買によって阻害されているかもしれないということは、市場参加者は押さえておかなければならないことだろう。

明るい未来のためにESG投資をワークさせる

そこで重要になってくるのが、国連のSDGS(持続的な開発目標)やPRI(責任投資原則)といった潮流の中で、国際社会から投資サイドに強く求められているESG(環境・社会・企業統治)投資の実現であろう。特に新型コロナウイルスでカオスの状態にある国際社会において、現在の状況に対する緊急的な措置やポスト・コロナショックやその先の人類にとって、適切な資源配分やイノベーションなどのために金融市場のESG投資がどのようにワークするかが問われている。

当該分野においては、AIではなく、人間が様々な考察やイマジネーションを駆使して何とか良い方向性を模索しなければならない。その際、本来、SDGSが有している理念とESGという投資哲学が短期スパンでは整合しないこともあるという事実に直面することもあるだろう。しかし、この難題を乗り越えて、明るい未来のためにESG投資をワークさせられなければ、金融市場を席捲しているAIを超えることはできず、最重要インフラである金融市場の本来の役割を果たせないことになる。

いずれ、AIのディープ・ラーニングが進み、徐々にAIなりの将来や未来を見据えることになるかもしれない。その時に、地球の未来にとって人間は必要がないとAIに判断されないように、しっかりと持続可能でよりよい世界を目指さなければならない。

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