ブラックロックのOCIOサービスとリスク管理プラットフォーム「Aladdin」 ポートフォリオのリスクの源泉を一元管理。意思決定の質を高め、運用高度化を実現
市場環境の構造的な変化とオルタナティブ投資の拡大により、ポートフォリオはかつてないほど複雑化している。従来の資産別管理では捉えきれないリスクの実像をどう把握すべきか。ブラックロック・ジャパンのアラディン・プロダクト部長マネージング・ディレクターのウェッテン迪子氏とマルチアセット運用部ディレクターの中川亮太氏に、同社のOCIO(アウトソースド・チーフ・インベストメント・オフィサー)サービスとリスク管理プラットフォーム「Aladdin(アラディン)」について聞いた。

マルチアセット運用部ディレクター
中川 亮太氏(左)
ブラックロック・ジャパン
アラディン・プロダクト部長 マネージング・ディレクター
ウェッテン 迪子氏(右)
「リスク・ファクター」を共通言語に運用判断を効率化
日本のアセットオーナーを取り巻く運用環境は、大きな転換点にある。国内の金利上昇により債券などの利回りは改善し、運用収益を高めやすくなった一方、インフレの進行は現金の実質価値を低下させ、資産運用の高度化に対する機運を一段と高めている。加えて、政府が推進する運用の「見える化」により、アセットオーナーには、どのようなリスクを取り、どのような考え方で運用しているのかを、ステークホルダーに説明する責任が強まっている。
こうした環境下では、オルタナティブ資産をはじめとする新たな戦略や資産をどう管理し、リスクの源泉に対する透明性を確保するかが重要な課題となる。ブラックロック・ジャパン マルチアセット運用部ディレクターの中川亮太氏は、「株式、債券、オルタナティブ資産といった資産分類別の保有比率だけでは、ポートフォリオの実態を十分に把握できない。例えば、プライベート・エクイティはオルタナティブ資産として分類されるが、実質的には伝統的な株式と同様のリスクを内包している。そのためポートフォリオ全体で株式リスクをどの程度取っているのかを把握するには、従来型の資産分類を超えた分析が不可欠だ」と語る。
こうしたリスク管理の基盤となるのが、ブラックロックのOCIOサービスを支える「Aladdin」である。「Aladdin」の中核機能の一つであるリスク・ファクター分析は、資産価格の変動を説明する共通要因を特定し、保有ポートフォリオを個別銘柄レベルまで分解したうえで、要因ごとに再構成して捉える。
例えば、日本株ファンドに組み入れられた複数の銘柄を、市場全体の動きや業種ごとの影響度といった観点で分析することで、ファンド全体が各リスク要因にどの程度さらされているかを把握できる。さらに、その感応度と各要因の変動性を組み合わせることで、ポートフォリオ全体のリスクを定量的に把握することが可能となる。
「この分析の意義は、異なる資産クラスを一つの尺度で捉えられる点にある。従来のリスク分析モデルは資産クラスごとに発展してきたため、複数資産を統合的に見渡せる仕組みは決して多くない。しかし実際の市場では、金利変動が株式に影響を与え、為替変動がプライベート資産にも波及するなど、ショックは資産クラスの違いを超えて伝播する。『Aladdin』は、こうした前提に基づき、プライベート資産を含むポートフォリオ全体を日次で把握しやすくし、モニタリングの高度化に資するツールだ」(ブラックロック・ジャパン アラディン・プロダクト部長 マネージング・ディレクターのウェッテン迪子氏)
これにより、個別には分散しているように見える投資でも、全体として同一のリスクに偏り、真の分散が実現できていない、いわゆる「合成の誤謬(ごびゅう)」と呼ばれる状態を回避することが可能となる。さらに、株式運用・債券運用・リスク管理・全体統括といった各担当者がリスク・ファクターという共通の基盤のもとで議論できるため、意思決定に至るまでの工数軽減にもつながる。
ブラックロック自身が活用し、運用現場の知見を顧客と共有
オルタナティブ資産の管理には、データ整備の負荷という実務上の課題もある。各資産のデータがPDFで届くことも多く、各資産を同じプラットフォームで比較するために情報を手入力で取り込む必要があるなど、標準化に手間を要していた。
そこでブラックロックは数年前にオルタナ資産の分析・管理技術で業界をリードするeFront社を買収した。同社の強みの一つは大量のGPから提供される報告書類を読み込み、自動的にデータを抽出・検証・標準化する機能。それにより従来、各案件の情報を手入力していた工程を自動化でき、その分の時間とリソースを投資判断にかけることが可能になった。
「重要なのは、こうした仕組みを単に提供しているだけではなく、ブラックロック自身が『Aladdin』を運用管理の基盤として活用し、その知見をシステムに反映している点だ」とウェッテン氏は強調する。その一例がシナリオ分析であり、社内のリスクチームやポートフォリオ・マネジャーが構築した市場シナリオを顧客と共有することで、米トランプ政権下の政策変更や英国のEU(欧州連合)からの離脱といった市場イベント発生時の影響の試算を提供してきた。「実際の運用現場で蓄積されたノウハウを反映した仕組みであることが、本サービスの大きな特徴の一つだ」(ウェッテン氏)
世界で加速する一元管理。日本での現実的な選択肢とは
海外では、ポートフォリオに占めるプライベート資産の比率上昇を背景に、アセットオーナーの間でTPA(トータル・ポートフォリオ・アプローチ)への関心が高まっている。これは、資産クラスごとではなく、ポートフォリオ全体を一体として管理する考え方であり、こうした潮流の中で、複数のリスク要因を横断的に分析できる「Aladdin」への引き合いも増えている(図表)。

注:独自のテクノロジープラットフォームはリスク管理に役立つ場合がありますが、リスクを排除することはできません。
米国ではOCIOの活用が拡大し、確定給付企業年金における普及率は約4割に達している。また、オランダでは2000年代前半にOCIOが定着し、英国でも金融危機を経て市場が拡大してきた。オーストラリアでは、年金におけるプライベート資産への配分が大きくなっており、各基金が自らのポートフォリオをどのリスク要因で説明するかを整理しながら、TPAを進める先進事例も生まれている。グローバルに見れば、資産全体を一元的に把握し、管理する方向性が明確になりつつある。
「日本のアセットオーナーにおいては、資産全体を一元管理するためにシステムを導入すること自体が難しい場合も少なくない。そこで、当社が運用を受託するOCIOサービスを通じて、ポートフォリオ全体の情報を定期的に受け取り、リスク・ファクター分析した結果をレポーティングする形で、少数精鋭での運用体制を維持しつつ、先進的なテクノロジーを活用することが現実的な選択肢となるだろう」と中川氏。その言葉通り、ブラックロックはOCIOを「アセットオーナーのスタッフの延長」と位置づけており、見える化、機動的なリバランス、ポートフォリオ見直し支援、情報収集能力の活用などを通じて、投資方針の策定からモニタリング、要因分析、実装までを一気通貫で支援している。
運用高度化への要請と人員・体制の制約を同時解決するうえで、テクノロジーの活用は欠かせない。そうした中で「Aladdin」は、いわば運用のインフラとして活用されることを想定しているという。
「アセットオーナーには情報収集や分析といったプロセスを効率化し、本来注力すべき意思決定に資源を集中していただく。そうした運用体制の実現に貢献することが、当社の目指すところだ。当社は運用会社であると同時に、テクノロジー企業としての側面も併せ持つ。長年にわたり培ってきた運用知見とテクノロジーを、OCIOサービスという形で日本の機関投資家の皆様にもぜひ活用いただきたい」(中川氏)
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