市場構造が大きく揺らぐなか、インデックス中心の株式ポートフォリオ運営に見直しの機運が浮上している。現在、機関投資家の間で増えているのが、インデックスをコアに据える運用は維持しつつ、機動的に「市場の中身」を調整するサテライトとして「セクターETF」を組み合わせるアプローチだ。世界最大規模のS&P500のセクターETFを提供するステート・ストリート・インベストメント・マネジメント(ステート・ストリート)に話を聞いた。

※文中のセクター名に示す英略語は、ティッカー名

山口 美帆氏/プシュパギリ・ヤダギリ・スリ氏
ステート・ストリート・インベストメント・マネジメント
セクター・スペシャリスト
山口 美帆氏(左)
ステート・ストリート・インベストメント・マネジメント
キャピタルマーケッツグループ
プシュパギリ・ヤダギリ・スリ氏(右)

世界の機関投資家が導入を進める米株投資の拡張的な選択肢

近年の盤石なパフォーマンスを背景に、S&P500に対するインデックス投資が株式ポートフォリオのコアとなっている機関投資家は多いだろう。ただし、不確実性の高い局面では、市場全体に一様に投資するインデックス投資だけでは戦略がワークしにくい。一方で、指数を業種(セクター)別に分解すると、セクター間のパフォーマンス差が顕著になっている。こうした中、「指数全体への投資はコアとして維持しつつ、一部をサテライトとしてセクター別に投資できるETFに配分することで、『どのセクターでリスクを取るか』という戦略的な判断をポートフォリオに反映できるようにすることが重要だ」と説明するのは、ステート・ストリートのセクター・スペシャリスト 山口美帆氏だ。

これまでS&P500はマグニフィセント7に代表されるビッグテックが全体の伸びを牽引してきたが、足元では調整局面入りが囁かれるためだ。「増えすぎたテクノロジー関連銘柄のアロケーションを調整するリスク分散だけでなく、継続的にリターンを享受するために『これから伸びる』セクターに軸足を移すことも重要だ。その攻守いずれの調整も柔軟に実行できる点が、セクター別ETF投資の意義となっている」(山口氏)

インデックス投資の分散手段としては、割安さも手伝ってファクター投資が選択肢に上がりやすい。ただし、ファクター投資はその戦略がどこで“効く”のか、マクロ環境との整合で分析しにくい。運用方針の土台となるマクロ環境ビューや注目テーマを、よりシンプルかつダイレクトにポートフォリオに落とし込む手段としては、セクターに注目するほうがピュアと言える。また個別株で分散を図る際は個別要因の価格変動による当たり外れが出やすいが、同じ業種の企業プールに投資するセクターETFであれば、そうしたブレを均すことができる点もメリットになる。

こうした背景から、世界の機関投資家の間でもセクターETFの組み入れが拡大しているという。「保有目的は集中リスクのヘッジ、ディフェンシブ・グロースといった投資スタンスのポジション調整、アルファ追求など千差万別だ」。こう述べる山口氏は、まだセクター投資は広く知られていない投資アプローチだが、株式ポートフォリオにおける次のスタンダードとなる可能性を大いに秘めていると語る。

「そして、望めば日次での売買も可能な機動性がセクターETFの強みだが、機関投資家の運用では、半年~2年程度の中長期的な視野でマクロ環境の見通しをシンプルかつ効率的にポートフォリオへ反映できる点に、セクターETFの価値がある」(山口氏)

地政学リスク局面で注目されるエネルギー・素材・公益事業

『セレクト・セクターSPDR® ETFシリーズ』では、S&P500銘柄を11のセクターに分け、各セクターに特化したエクスポージャーを持つETFを提供している。

【図表1】セクターETFの主要ポイント
セクターETF の主要ポイント
出典:Bloomberg Finance, L.P., State Street Investment Management(2025年12月31日現在)。
注記:運用資産残高は2026年3月末時点。セクターETF残高は2026年4月末時点

現在ステート・ストリートは、米国景気は底堅さを維持するとの見解を示したうえで、これから半年~1年程度、セクター間のパフォーマンス差は引き続き大きく出ると予想している。特に、足元では地政学要因で差が出やすい環境だ。イラン戦争に起因する原油や原材料の供給ショック、インフレにより、エネルギーセクター(XLE)のプレミアムが伸びやすい。仮に原油価格が落ち着く局面に移っても、セクター投資としての組み入れは、他セクターとのバランスを通じて耐久性を発揮しやすい。

なお、注目すべきセクターはエネルギーだけではないと山口氏は力を込める。見落とされがちだが、地政学リスクが高まる局面で同様にアウトパフォームが期待できるのが、素材セクター(XLB)と資本財セクター(XLI)だ。「グローバルサプライチェーンが混乱するなか、米国企業は製造業の国内回帰とも相まってマーケットシェアを拡大している。特に素材セクターでは、ポリエチレンや肥料で米国企業が世界シェアの約3分の1を占めるなど、米素材業界がもともと持つ隠れた強みが際立つ環境にあるとみている。また、資本財セクターには防衛関連企業も多く含まれており、地政学的緊張が高まる局面では、安全保障や防衛投資の観点からも相対的な注目が集まりやすい」(山口氏)

ディフェンシブセクターの代表格として知られる公益事業セクター(XLU)も興味深い動きを見せる。「AIの普及に伴う電力需要・データセンター需要の拡大で、既に盤石な基盤を持つ電力会社が相対的な優位性を発揮しやすい環境にある。従来は安定性・高配当が注目されてきた公益事業セクターに、グロース的要素が加わってきた点は面白い」と語る。

【図表2】セクターETF 機関投資家の活用ポイント

セクターETF 機関投資家の活用ポイント

最良執行の専門チームが投資判断・取引を支援

ステート・ストリートのセクターETFは1998年設定で米国セクターETFとして最長の歴史を誇り、27年超の運用実績を積み上げてきた(一部2015年と2018年に設定された銘柄がある)。

規模面でも際立つ。11セクター合計の運用資産は3,600億ドル超(2026年4月30日時点)に達し、平均出来高と併せて次点の競合に大きく水をあける。この高い流動性の存在こそ、多くの機関投資家がステート・ストリートのセクターETFを通じてセクター投資に取り組む背景になっていると山口氏は強調する。

セクター投資は日本ではまだ馴染みが薄いことから、ステート・ストリートは投資家のサポートも欠かさない。全11セクターをランキング化したスコアカードを毎月発信したり、週次でセクターコメントも届けたりしている。

なお、機関投資家向けに特化したETFビジネスにおいては、「キャピタルマーケッツグループ(CMG)」の存在も大きい。CMGは指定参加者(AP)を中心に、マーケットメーカー、ブローカー・ディーラーなど、さまざまな流動性提供者とのグローバルなネットワークを基盤に、ETFの売買執行を実務面から支援する。グローバルにおける数十年の実績と豊富なデータに基づくサポートを行っている。

【図表3】キャピタルマーケッツグループのサポート

キャピタルマーケッツグループのサポート

CMG所属のプシュパギリ・ヤダギリ・スリ氏は「日本時間での参考プライスの提示に加え、流動性の事前分析や取引相手(カウンターパーティ)との接点の構築を通じて、効率的な売買執行を支援できる。他社ETFなどの既存ポジションからのスイッチングや、個別株を中心とした既存ポートフォリオをセクターETFへ組み替える場合でも、売却と購入を一体で捉えた執行設計・助言が可能だ」と説明する。

運用戦略の立案にとどまらず、実装段階まで踏み込む支援体制は、流動性や総所有コストにこだわる機関投資家にとって大きな助けとなるだろう。

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