米国プライベートクレジット市場では、大企業向け案件への資金集中の裏で、ローワー・ミドル・マーケット(LMM)に資金が届かない構造的な歪みが生じている。ロベコ・ジャパンの白石浩一氏は2026年4月9日、東京都内で開催されたJ-MONEYカンファレンス(主催:J-MONEY)で、LMMの構造的優位性と、それを取り込むNXTキャピタルの運用戦略を語った。そのサマリーを紹介する。

優良企業に資金が届いていない

白石 浩一氏
ロベコ・ジャパン
運用部長
白石 浩一

足元の金融市場では、AI(人工知能)関連ソフトウェアセクターへの懸念やファンドの解約増加を背景に、プライベートクレジット市場全体への慎重な見方が広がっている。しかし本日ご紹介するローワー・ミドル・マーケット(以下LMM)では、投資対象や案件の構造が大企業向け融資とは大きく異なり、リスクの顕在化のされ方も別物だ。

米国大企業向けレバレッジドファイナンス市場では、規制強化を背景に銀行融資が後退する一方、投資家の運用資金は潤沢に流入し続けている。その結果、大企業案件に資金が集中して競争が激化し、条件面でも借り手有利の状態が続く。一方、良質な企業が存在するにもかかわらず、資金が十分に届いていないのが、中小型企業向けのLMMだ。資金が余る領域と、資金が届かない領域が同時に存在しているのが現在の米国市場の姿である。

プライベートクレジットに近年参入してきた大手運用会社の多くは、資金を迅速かつ大量に投入できるアッパーミドルやラージ領域に注力する傾向が強く、手間のかかる小規模案件にはなかなか手が出しにくい。以前から参入していた運用会社も、ファンド規模の拡大に伴い投資先の大型化が進み、これがLMMにおける条件の優位性を生み出す土台となっている。

低LTV、低レバレッジ

LMMと大企業向け融資の違いは、資本構造、貸し手保護、主導権、分散の4点で整理できる。1点目の資本構造では、LMMは大企業向けよりレバレッジが約0.4倍低く、LTV(ローン・トゥ・バリュー)も約6%低い水準にとどまる。また企業規模が小さい分、約40bpsの上乗せスプレッドが乗る。2点目の貸し手保護では、大企業向けの契約が標準化され借り手優位に傾きやすいのに対し、LMMでは財務コベナンツが厳格で、EBITDA(利払い前・税引き前・減価償却前利益)やバスケットも保守的に設定される。

3点目の主導権では、大企業向けが大規模シンジケートで交渉力が分散するのに対し、LMMは単独レンダーや小規模なクラブディールが中心となるため、モニタリングを高頻度で行えたり、問題発生時に即時対応できたりする。これは下方リスク抑制に効いてくる特徴である。4点目の分散では、案件が小規模で重複が少なく、特定の大型案件への集中リスクを避けられる。

データもこの構造を裏付ける。EBITDA4,000万米ドル以上の企業ではレバレッジが平均4.5倍程度で推移するのに対し、1,000万米ドル未満の企業では3.5~4.0倍程度と明らかに低い。LTVも、2,000万米ドル以上が40~45%で推移するのに対し、2,000万米ドル未満は概ね30%台後半で推移している。利回り水準で見ても、規模の小さい企業が大企業より高い時期が多い。

大企業向けプライベートクレジットに既に投資している機関投資家にとって、LMM組み入れの意義は3点に集約されると考える。第一にリターン向上。構造的に高いスプレッドに加え、小規模かつオリジネーション主導でリターンを積み上げやすい。第二に下方リスク耐性の強化。低レバレッジ・低LTV・厳格なコベナンツが、損失発生そのものを抑える。第三に分散効果の向上。借り手やスポンサーが分散しやすく、大企業向けポートフォリオとの投資対象の重複が少ない。

オリックスUSAが共同出資

こうしたLMMの魅力を取り込むように構築されたプラットフォームとして、ロベコと同じオリックスグループ傘下のNXTキャピタル(以下NXT)を紹介したい。2010年に設立された米国ミドルマーケット向けダイレクトレンダーで、オリックス・コーポレーションUSA(以下オリックスUSA)の完全子会社だ。EBITDA500万~3,500万米ドル規模のスポンサー支援案件に特化した第一順位のシニア・セキュアード・ローンを提供している。創業以来2025年12月までの累計コミットメント額は260億米ドル超、貸出先は累計541社に達する。

我々が考えるNXTの優位性は3つの要素に整理できる。第一に、強固なアライメントだ。運用プロフェッショナルが共同運用ファンドに直接出資し、NXT自身も組成・管理ローンの成果に直接参加する。さらにオリックスUSAは、NXTが組成するローンの100%にバランスシートで参加し、実質的なコミットメントを担保しているという認識だ。投資家、運用者、プラットフォームオーナーが同じ方向を向く構造が、長期的な規律を支える。

■NXTのLMM投資戦略:リスク管理とリターン創出の考え方
NXTのLMM投資戦略
¹ 2023年1月1日~2025年12月31日にクローズした新規プラットフォーム案件を指します

第二に、高い実行力とスピードだ。LMMでは良い案件ほどスピードと確実性が重視される。NXTはバランスシートを活用し、新規ファンドの資金拠出を待たずに案件を保有できる点が利点であると考えている。投資哲学は「Underwrite to Hold」。売却前提ではなく長期保有を前提とした審査により、市場環境に左右されにくい一貫したクレジット判断が可能となる。

第三にスケールと安定性。バランスシートからの安定収入を人材獲得や継続的なインフラ投資に振り向けつつ、投資判断はオリックスUSAの基盤を活用しながらNXTが独立して行っている。

NXTは複数の信用サイクルを経験してきたメンバーが中核を担う。約50名超の専門スタッフと連携し、ソーシングから審査、実行、モニタリング、ワークアウトまでNXT内で完結できる体制が、強みの源泉だ。

NXTには年間膨大な案件が持ち込まれるが、投資委員会通過は約4%、クロージングに至るのは約3%にとどまる。約8割の新規プラットフォーム案件で単独レンダーまたはアドミニストレーティブ・エージェントを務めており、契約条件、コベナンツ設計、モニタリング頻度をNXT自身がコントロールできる。投資対象は100%第一順位のシニア・セキュアード・ローンに限定し、必ず1つ以上のコベナンツを付して下方局面での損失耐性を強化。業種分散の観点でも、足元で懸念されるソフトウェアの比率は低く、ヘルスケアやビジネスサービスに分散投資している。

リスク抑制の実績にも触れたい。2010年の設立以降、累計541社・266億米ドルの貸付に対し、デフォルトは30件・12億米ドル、最終的な実現損失案件は9件・1.6億米ドルだ。回収率は全期間で87%、直近3年は118%とデフォルト後の利息・手数料も得ている。市場平均のレバレッジドローン回収率57%、ダイレクトレンディング49%、ハイイールド債40%と比べて明らかに優位な水準だ。スポンサーから不調案件への追加エクイティ支援が累計20億米ドルに上る点も、NXTとスポンサーとの協調関係の強さを示している。

プラットフォームそのものがLMMに特化したNXTを通じて、その構造的優位を取り込む意義は大きいと考えている。ぜひご注目いただきたい。

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