知りたい!隣の企業年金・第41回 花王グループ企業年金基金——DBとDC、「窓口」は1つ〜DCの機能改善、DBの持続性併せて追求
洗剤やトイレタリー大手の花王グループ企業年金基金を訪ねました。花王はDB(確定給付型)とDC(確定拠出型)2つの企業年金を運営しています。このこと自体は今や当たり前ですが、基金の事務長以下、職員全員がDC運営を兼務しています。加入者への対応として「DBとDCが1つの窓口」がなぜ可能になったのか。事務局側の苦労は。そして今、何を目指しているのか。このサービスを提起し、当初から業務を兼ねてきた木村雅美事務長に詳しく伺いました。

花王グループ企業年金基金の概要
- 所在地/東京都中央区日本橋茅場町1丁目
- 設立年月/1969年に厚生年金基金として設立、2004年1月に代行返上し現基金
- 資産総額/約3000億円
- 加入者/約18000人 受給者/約6500人
- 予定利率と期待運用収益率/3.0%
(いずれも2025年3月末現在)
花王グループのDCの概要
- 加入者数/約18000人
- 実施事業所数/11
- 想定利回り/2.5%
- 運用商品数/26本
(いずれも2025年3月末現在)
事務局全員がDBとDC兼務
驚きました。木村さんの基金では、事務局の全員がDB運営業務のほかにDCの業務も兼務されているとか。普通、DBは基金が担当し、DCは母体の人事部門が所管しますよね。
木村 当社は2003年にDCを導入したのですが、最初からDB(当時は厚生年金基金)と窓口業務を一本化していました。基本的には基金の兼務メンバー側でDCを運営してきましたが、数年前からガバナンス体制構築や商品の見直し、人事制度自体の変更もあり、人事担当も数名DCに関わっています。今後も人事が主でDC委員会の事務局運営をすることで、体制の継続性を担保しています。
そこがまず画期的です。どういった理由だったのですか。
木村 当時の人事部長が基金の常務理事を兼務していたことから、そのような発想が出てきたのだと思います。「これを申し込むのは基金」「この書類は人事」というのでは、社員の手間が大変。新しい制度がスムーズに導入できないのでは——と。そこで、当初からDBとDCの窓口を一本化するよう指示がありました。「加入者から見て分かりやすい制度」を第一の目標に据えたわけです。
「加入者ファースト」。言うのは簡単ですが、なかなかできることではない。
木村 ある意味、これは花王という母体企業の経営風土かもしれません。内容に親和性があって、兼務することが合理的であれば兼務させる。そうすることで潜在的な摩擦が少なくなり、プロジェクトの成功度合いが高まる。そういった考え方が組織に浸透しているように思います。
資産形成への関心が二極化
DCを導入して23年経ちました。心配な点、気になる点はありますか。
木村 自身の資産形成に関心がある層と、ほぼ無関心な層との二極化が進んでいることです。
利回り構成としては、0~1%未満にとどまっている加入者が約3分の1と多数派です。ここ数年は、10%以上という高い利回りの加入者も増加しています。他企業でも同様だと思いますが、二極化の傾向が顕著です。
利回り10%以上というのは素晴らしい。
木村 そうなのですが、依然として0~1%未満のゾーンが多い。ここを何とかしたい。ずっとそう思っていました。
加入者参加型の「DC委員会」設置
そこで、木村さんたちが動いた。
木村 はい。DBには代議員会があり、資産運用委員会もある。しかしDCには、こうしたガバナンスを司る委員会が法令で義務付けられていません。加入者が自らの資産形成を考える上で、DC制度に加入者自身が参画し、意見を表明する場が必要なのでは。私たちは年来そう考えてきました。2025年2月、DBの代議員会にあたる組織として「DC委員会」、そして運用商品などに関する諮問機関として「DC資産運用委員会」が設置されました。DC委員会は、DBの代議員と花王グループ各社の社員代表が委員です。加入者の運用状況などの報告を受け、運用商品の改廃、規約変更などを決議します。運用商品選定では、選定プロセスが透明化されることも良いと考えています。
運用商品26本中19本を除外
第1回のDC委員会が2025年2月に開催、合計4回開催されているわけですね。
木村 グループ各社の社員代表のみなさんから活発な意見が出て、正直驚きました。特に運用商品のラインアップに関して追加しないカテゴリーや除外する商品に関する声が上がりました。元本確保型商品の多くを除外することに対する不安の声もありました。インフレや経費率の低いインデックス商品に入れ替える意味合いなど、丁寧に説明しました。ラインアップについては、複数の金融機関に現行商品の分析や商品提案をしていただいた上で数多く比較検討し、運用管理機関と粘り強く交渉しました。
その結果、要望を汲み取っていただき、ユニバース外商品も追加が可能となりました。現行26本ある運用商品のうち19本を除外し、新たに18本を追加して合計25本とすることを決めました。中でも、インフレ耐性が弱い元本確保型が11本から3本に激減したのは大きな変化です。DC運用商品の除外は、当該商品に投資している加入者の3分の2以上の同意が必要であり、大変手間もコストもかかる業務です。そこを今回は、社員代表のみなさんに運用の基本的な知識の習得から始まって、商品見直しの背景なども理解してもらって、各社からの意見聴取やご意見に対する説明等の対応などにご協力いただきました。その結果、見直しのプロセスを円滑に進めることができました。2026年4月から順次、商品の追加と除外の実務作業が始まります。

DBは慎重運転、徐々にプライベート投資
さて、DBはどういった運用なのですか。
木村 【図表】が当基金の現在の政策アセットミックスです。国内債券の内数にヘッジ外債やオルタナティブ、生保の一般勘定も入っています。プライベート投資を始めたのは2023年から。不動産の国内私募リートやインフラに取り組んでいます。
| 国内債券 | 外国債券 | 国内株式 | 海外株式 | 合計 |
|---|---|---|---|---|
| 63% | 19% | 9% | 9% | 100% |
DCでの果敢な取り組みとは対照的。かなり保守的なスタンスですね。
木村 かつては、アクティブ運用の商品も多く、かなり尖った運用でした。それが多くの企業年金がマイナス運用に陥った2001年ごろから運用に関する方針変更を検討し、代行返上を機に一転してすべてパッシブ運用に切り替えるなど、保守的運用に大きくかじを切っています。現状も基本的に慎重運転で、実物資産のある資産性オルタナティブから少しずつ拡大し、様子を見ながら進めています。まだ数%と全体に占める割合も小さく、ボラティリティを抑えるほどの影響がないため、昨年、本格的にオルタナ投資を拡大する第一段階としてALMを実施、現行のアセットミックスに変更しました。現行のカテゴリー商品について拡大を検討しているところです。プライベートエクイティやプライベートデットへの投資は検討事項としています。2027年3月基準で財政再計算を行い、それを基にした次のアセットミックスでは「オルタナティブ枠」を設けたいと考えています。
DBの「安心感」伝えたい
DBの存在意義については、どのように認識されていますか。
木村 当社のDBは終身年金です。昨今はもっぱらDCが話題の中心ですが、生涯にわたって給付が維持されるDBの「安心感」はとても大きいと考えています。私自身、長く企業年金に関わってきて、資産運用がいつもうまくいくわけではないことを肌身で感じているからです。でも、加入者の多くに、それが理解されていないと感じています。退職後にDBのありがたさを感じる受給者は多いですが、在職している加入者にとって安心して業務に専念できる環境づくりとして、DBの存在意義を伝える活動をしていく予定です。
DC運営に加入者も積極的に関わってもらう。運用商品のラインアップを向上させて、加入者の経済基盤を安定させる。と同時に、DBの持続性を確保し、その安心感を認識してもらう。この二兎を追うのが私たちのミッションです。
「知りたい!隣の企業年金」は毎月20日ごろの配信を予定しています。

【構成・執筆】阿部圭介
J-MONEY論説委員
1980年、朝日新聞社に入社。金沢支局で記者生活をスタート。その後、整理部記者として紙面編集を担当。経済部記者として金融、証券、情報通信などを取材。経営企画室長、大阪本社編集局長、朝日ビルディング社長を経て2022年3月まで朝日新聞企業年金基金常務理事。2022年4月から現職















