全国の地方新聞が加入する全国新聞業企業年金基金を訪ねました。同基金は2025年9月、総幹事会社を変更しました。企業年金にとって、総幹事は事務手続きの代行や資産管理などを包括的に委託する相手先であり、その変更は極めてレアケースです。田中和広常務理事は「事務サービスの改善を図り、加入者や受給者に対するWEB対応など今後のDX化へ備えるための苦渋の決断だった」と振り返ります。また、総幹事の新旧移行プロセスは相当大変な作業だったようです。

全国新聞業企業年金基金―一事務サービス改善へ総幹事変更
全国新聞業企業年金基金は、日本新聞協会や地方紙の東京支社などが入居する日本プレスセンタービル内にある=東京都千代田区内幸町2丁目で

全国新聞業企業年金基金の概要

  • 所在地/東京都千代田区内幸町2丁目
  • 設立年月/1993年に厚生年金基金として設立、2016年3月に代行返上し現基金
  • 事業所数/54
  • 資産総額/約160億円
  • 加入者/4230人 受給者/2259人
  • 予定利率/1.5% 期待運用収益率/2.5%

(いずれも2025年3月末現在)

事業所からの掛金滞納はゼロ

そもそも全国新聞業企業年金基金というのは、どういった組織なのですか。

田中 日本全国で「新聞」という名前のついた発行物は専門紙を含めると200社以上あるかと思いますが、当基金は日本新聞協会に加盟する119社(新聞95、通信社4、放送20)のうち、東京都以外の地方紙とその関連企業54社で構成されています。

私自身、新聞社に長く身を置いた身からすると、インターネットの発展と逆シンクロする形で発行部数は大きく右肩下がり。さぞかし御基金に加入する地方紙の経営状態、そして基金自体の財政状態も厳しいのではないかと想像するのですが。

田中 意外かもしれませんが、地方紙はその地域で寡占だったり、強い発信力を持っていたり、それなりのブランド力と安定した財政基盤を持っています。当基金では厚生年金基金からDB(確定給付型)企業年金へ移行後、事業所からの掛金の滞納は一切ありません。年金受給者数はほぼ横ばいですが、加入者は毎年80人ほど減っており、これは若干懸念材料です。

【図表1】全国新聞業企業年金基金の政策アセットミックス(AM)
国内債券 国内株式 外国債券 外国株式 一般勘定 短期資金 その他
政策AM 25.0 11.0 10.0 14.0 15.0 0.0 25.0 100
許容
乖離幅
20~30 6~16 5~15 9~19 10~20 0~5 20~30

リスク抑制重視し国内債にウエイト

それでは資産運用について伺っていきます。【図表1】を拝見すると、国内債券とその他(オルタナ)の比率が高い配分だと思いますが。

田中 総合型の基金として、財政の安定性と流動性の確保を最優先した結果です。また、リスク分散を図る意味で、従前から信託銀行のバランス運用なども採用してきました。ただ、日本も「金利のある時代」に入り、インフレ対応なども視野に入ってきたので、2024年4月からプライベート・エクイティ(PE)への投資を始めました。コンサルタントからの推奨で、当基金として初のプライベートアセットへの取り組みとなります。ただ、PEは投資の初期段階でリターンがマイナスになる「Jカーブ」を甘受しなければなりません。この辺りは、事業主のみなさんには理解がやや難しいところ。意識して丁寧な説明を重ねてきたつもりです。生保の一般勘定も、安定したリターンと元本保証機能を求めて一定水準を保有しています。

旧体制ではシステム変更が困難

さて、ここからは「本題」と言える総幹事会社の変更について。多くの企業年金の関係者が、一度は「総幹事入れ替え」を検討したことがあるのではないでしょうか。しかし、委託している事務作業の多さや、長年培われてきた人間関係の深さなどから、変更に踏み切るケースは稀だと思います。

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