J-MONEYカンファレンス「金利変動で広がるチャンスとリスク」 【パネルディスカッション】ディーラーから企業年金そして大学、激動に向き合うベテランの視座培ったリターン・リスク管理、大学で応用〜資産運用図る大学はプロを積極採用
2025年5月16日、J-MONEYカンファレンス「金利変動で広がるチャンスとリスク〜金融市場”新常態”下のポートフォリオ戦略を再考する〜」が、東京・日本橋のベルサール東京日本橋で開催された。当日のプログラムの中から、パネルディスカッションの概要をお伝えする。

【パネリスト】
筑波大学
最高財務責任者(CFO)
(三井住友銀行企業年金基金・前常務理事)
野手 弘一氏

【パネリスト】
ラッセル・インベストメント
執行役員 トータル・ポートフォリオ・ソリューション本部長
エグゼクティブコンサルタント
金武 伸治氏

【コーディネーター】
J-MONEY 論説委員
(朝日新聞企業年金基金・前常務理事)
阿部 圭介氏
極めて稀なキャリア。為替ディーラーの出身
阿部 本日は極めて稀なキャリアのゲストをお招きした。三井住友銀行企業年金基金の常務理事を退任後、2024年4月から筑波大学の最高財務責任者(CFO)を務める野手弘一(のて・ひろかず)さんだ。
野手 私は1983年に当時の住友銀行に入行した。最初は大阪の上町支店で外回りからスタートした。プラザ合意の翌年、1986年に「これから為替の世界も変わる」ということで、銀行が若手の何人かを為替のディーラーとして育成し始めた。それに選ばれ、ロンドンやニューヨークに派遣された。最初は為替、その後は金利のディーリングも担当した。一貫して市場畑を歩んだ。2010年から法人営業を3年ほど担当した後、2013年4月に三井住友銀行企業年金基金に移った。11年間常務理事を務めた後、縁あって筑波大学にお世話になっている。
大学と民間で全く異なる財務・会計システム
阿部 民間から大学に移って驚いたことなどはあるか。
野手 日本に国立大学は現在85あるが、はっきり言ってみな財政に窮している。授業料はなかなか上げられないし、寄付金も集まらない。そうすると資金を運用しなければならないが、その方法が分からない。皆さんのように資産運用を勉強して、それを実現しているような方々を欲している。地方の大学がより深刻な状態なので、ご出身の地元で手を挙げられたらいかがか。
もう一つ大学に来て驚いたのは、学校法人の会計と民間の会計は全然違うということだ。大学は教育研究活動を行う非営利法人で、一義的に利益を得ることを目的としていない。一方、企業年金では予定利率とか運用利回りの目標があって、端的に言えばそこへ向かって稼がなければならない。
人件費や諸物価の高騰で現在、大学の運営費用は増大している。しかし国立大学の運営を支えている国からの「運営費交付金」はほぼ一定なので、その依存度は低下し続けている。【図表1】をご覧いただきたい。

出所:筑波大学作成
※クリックすると拡大します
筑波大学では附属病院や外部資金の収益が増加しているが、運営費交付金が変わらないので、赤の折れ線グラフのように依存度は右肩下がりだ。「さすがにこれではまずい」ということで、国立大学も私のような人材、つまり長期投資を専門としてきた人材を募集するようになった。北海道大学、東北大学、東京大学、九州大学などと、北から南まで有力大学が軒並み招聘(しょうへい)している。
運用対象の過半は国債など「安全資産」
阿部 次に資産運用の実態を伺いたい。
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