第4回、第5回と連続してイールドカーブ、とりわけ近年の世界的現象であった「逆イールド」を深掘りしました。今回から再び債券戦略を採り上げます。今回と次回で2回にわたり、投資の機会が増えてきた「証券化商品」を特集します。名称が耳馴染みになってきた割には、内容を正確に理解するのはややハードルが高い。そのあたりを、ラッセル・インベストメントの金武伸治さんに解説してもらいます。

住宅・不動産ローンなどが担保資産

「証券化商品」と似た言葉で「モーゲージ担保証券」や「資産担保証券」というのもあり、よく混同します。用語あるいは概念の整理からお願いできますか。

金武 証券化商品とはローン債権などを担保とし、そこから発生するキャッシュフローを裏付けとして発行される証券の総称です。

モーゲージ担保証券は英語でMBS(Mortgage Backed Securities)といいます。MBSは証券化商品の一種で、住宅ローンや商業用不動産ローンを担保資産として発行されています。

資産担保証券は英語でABS(Asset Backed Securities)といいます。ABSも証券化商品の一種で、自動車ローンやクレジットカードローン、学生ローンなどを担保資産として発行されています。資産担保証券については、次回の後編で詳しく説明したいと思います。

前編では、モーゲージ担保証券についての説明が中心ですか。

金武 はい。なかでも今回フォーカスするのは、米国の住宅ローン債権を担保資産とする政府系のモーゲージ担保証券(以下、政府系MBS)です。政府系MBSは、国債に次ぐ市場規模と流動性を持っています。

Bloomberg 米国総合債券インデックスにおける国債の規模は13.4兆米ドルで、全体の45.2%を占めます。一方、政府系MBSは7.2兆米ドル、24.5%です。これに対して投資適格社債は7.1兆米ドル、24.0%ですので、政府系MBS市場は投資適格社債と同等程度の市場規模になります(2025年6月末)。

なおMBSに似た証券として、CMBS(Commercial Mortgage Backed Securities: 商業不動産担保証券)と呼ばれる商業用不動産ローンを担保とするものもあります。CMBSには政府系CMBSも存在しますが、政府系MBSと比較すると市場規模は小さく1/10以下です。

政府系MBSは、住宅ローンから発生するキャッシュフロー、つまり元利金(利息と元本返済)を投資家に支払う仕組みの債券です。通常の債券の場合、期中は利息であるクーポンのみを受け取り、最後の償還日に元本償還を受けますが、政府系MBSは期中から利息と元本の両方を受け取る形となります。【図表1】で政府系MBSのキャッシュフローを示しました。

【図表1】政府系モーゲージ担保証券のキャッシュフロー(※イメージ図)
【図表1】政府系モーゲージ担保証券のキャッシュフロー
出所:ラッセル・インベストメント作成

米国では、住宅ローン金利が現在の借り入れ金利よりもある程度低くなった場合、新しい住宅ローンで資金を借りて、現在の住宅ローンを返済してしまう、いわゆる「借り換え」が頻繁に発生します。例えば当初の借り入れ期間が30年の住宅ローンであっても、金利の低下によって想定よりも早い時期に元本が返済されてしまう期限前返済が起こります。これは債券の残存年数やデュレーションが短期化するということです。したがって、どのくらいの早さで住宅ローンが期限前返済されるか予測することが、モーゲージ担保証券を分析するポイントとなります。

政府や関連機関が元利保証

そもそも「政府系」とは何を意味するのですか。

金武 政府系MBSとは、モーゲージ担保証券のうち、政府または政府関連機関(GSE: Government Sponsored Enterprise)が元利金を保証しているものです。

元利金を保証している機関はジニーメイ(Ginnie Mae)、ファニーメイ(Fannie Mae)、フレディマック(Freddie Mac)の3つ。これらの機関には実質的な政府保証があると考えられています。ジニーメイは政府機関であるため、明確な政府保証が付いています。一方でファニーメイとフレディマックは政府関連機関ですが、その設立の根拠法によって、暗黙の政府保証が付いていると言われています。

ジニーメイの”G”がGovernmentを意味し、ファニーメイ、フレディマックの”F”がFederalを意味していますので、GかFかで区別すると覚えやすいでしょう。

「期限前償還リスク」が注意点

政府系モーゲージ担保証券を評価したり分析したりするポイントはどういった点でしょうか。

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