カシワバラ・アシスト
代表取締役社長
山下 朗裕

わが国の人口は、2008年の1億2808万人をピークに減少傾向をたどっている。しかし、総世帯数は単身世帯の増加などに伴い、むしろ増えており、2018年には5400万世帯と10年前に比べると約400万世帯多くなっている。

国土交通省が2020年1月に公表した住生活総合調査(2018年12月実施)の結果を見ると、住宅や住環境に対して不満のある世帯の割合は低下し、特に住宅に対する不満率は20年前に比べて半減した。住み替えについては、単身世帯(高齢世帯を除く)の約3割、子育て世帯の約2割が住み替え意向を有している。持ち家住まい世帯の持ち家への住み替え意向は、過去10年間で約8割から6割に減少した。借家住まいの世帯も持家志向が低下し、借家志向が高まってきている。地域にもよるが、土地や住宅価格の上昇を背景に新築物件に手が届きにくくなっている状況が反映されていると考えられる。

この間、総住宅数については、供給戸数の増加から2018年には6240万戸と10年前より480万戸増えており、1世帯当たりの住宅数は1.16戸となっている。この結果、空き家は849万戸と、空き家率(総住宅数に占める空き家の割合)は13.6%と過去最高となった。住宅所有の関係から見ると、持ち家比率が61.2%と借家の比率(35.6%)を大きく上回っている(総務省統計局資料より)。

住宅ローンは変動金利志向が根強い

住宅を取得する場合、多くの人は何らかの住宅ローンを利用している。民間住宅ローンで金利タイプ別の貸出実績を見ると、金利環境によってある程度の振れはあるものの、超低金利が続く中で、「固定金利期間選択型」(返済期間のうち、当初一定期間の金利が固定されているもの)や「全期間固定金利型」に比べ、「変動金利型」の割合が高くなっている。国土交通省の「平成30年度民間住宅ローンの実態に関する調査」によれば、2017年度の新規貸出に占める変動金利型の割合が5割を超えている。この結果、貸出残高(ストック)に占める「変動金利型」のウエートも6割弱となっている。

足元は全期間固定金利でも1%そこそこという極めて低水準の下、借入依存度の高い場合や、現在は共稼ぎで収入が安定しているが先行きの収入に不透明性が残る場合などには、家計管理を安定化させる観点から、住宅金融支援機構の提供するフラット35など全期間固定金利型の検討を勧めたい。

自覚のないまま将来にわたり多額の借金を背負うケースも

2019年、金融審議会でまとめた報告書の内容が話題となったが、老後にある程度の資金が必要であることは事実であろう。ただ、家計や住宅ローンに関わる仕事を通じて強く感じているのは、家計によって、収入も異なるが支出についてもかなりの差があることだ。平均的な金額と言われる貯蓄額がないからといって、それだけで直ちに不安を抱く必要はない。とはいえ、老後のために資産運用を積極的に行って、蓄えを大幅に増やさなければと考えている個人も多い。こうした人の中には、不動産運用(いわゆる賃貸)を始めるにあたって、建物の立地や評価額、将来の賃貸収入見込みなど、投資の前提となる重要な要件を十分に確認しないまま、安易に不動産を購入しているケースも見られるようだ。また不動産投資だけでなく、自宅を購入する場合のローンについても、超低金利の下で、将来にわたり多額の借金を背負うという自覚のないケースも生じている。

貸金業界では、個人の借入負担が重くなり過ぎないよう、総量規制や金利の上限などを設けている。例えば、スマホの機種変更に伴う端末代金(分割払い)やクレジットカードの決済がリボルビング払いになっていることを意識しないで、住宅ローンを申し込み、信用面の規制に抵触して借入を断られるケースも存在する。スマートフォンやクレジットカードの決済などは日常的なことなので、借金に含まれると思わないのは無理ない話ではあると思う。資産運用が強調される「人生100年時代」ではあるが、より基本的な金融の知識を個人に浸透していくことが関係者に求められる大切な事項の一つであると感じる。