トランプ関税に備える
・・とタイトルにしたものの、トランプ関税に備えることなんてできるのか。そもそもトランプ大統領自身が明日どういう政策をとるのかもはっきりしていないのではないかとの疑念さえある中、ましてやそれに備えるなど出来るはずもない。
トランプ関税に対する見通し

グローバルマーケット統括本部 副会長
チーフクレジットストラテジスト
チーフESGストラテジスト
中空 麻奈
トランプ政権が相互関税政策を発表した2025年4月2日、いわゆる「解放の日」以降、金融市場を含め世界は震撼しっぱなしだ。同9日に発動された措置は次の通りだった。
①中国に対する125%の関税
②鉄鋼、アルミニウム、自動車セクターに対する25%の関税
③米国・メキシコ・カナダ協定USMCA適用品目を除いたカナダとメキシコからの輸入品に対する25%の関税
④4月2日に導入された関税免除措置は継続
⑤米国に輸入される他のすべての商品に対する10%の関税、と国ごとに設定された相互関税上乗せ部分の適用の90日の停止
――である。
とんでもない関税の応酬になってしまえば自由貿易は確かに崩れていく。それをどうしたら阻止できるのか。
かといって、それだけの崩壊シナリオばかり持っていても進めないためだろうか、足元で発表された米国金融機関の決算の際の経営者のコメントでは、ネガティブ一辺倒というわけではなかった。
JPモルガンのジェイミー・ダイモンCEOは、「世界貿易戦争により米国経済の景気後退入りの可能性は高まり50%程度ある」としたが、それ以外の経営者は基本「慎重ながら楽観」と述べている。BNPパリバが世界の企業顧客(700社以上)に対して行ったアンケートでも、総じて言えることとして、大半の企業は関税が比較的早く撤回されると見ていること、期間については87%が半年以内に決着する見込みとした。
つまりは短期的には慎重で混乱しているものの、世界の経営者は「こんな状況が長く続くはずがない」との見方をしている、ということだろう。筆者自身も、基本観は同じである。
米国が無理を言って、それにすべての国が応じるならいざ知らず、そうでないとすれば必ずや米国にリスクが跳ね返る。先日の米国債が売られた時のように、ベッセント財務長官が問題の大きさをトランプ大統領に囁かなければならない事態まで、トランプ大統領が米国の毀損を放置できるか、ということがあるためだ。
トランプ大統領が「買い時」と米国株についてコメントした通り、これから株価があがる材料も仕込まれてくる公算は大きい。そう考えれば、短期的にはボラタイルでも、中期的なところまでネガティブ一辺倒でいるべきではないのではないか。
ただし、ここに来て、自由貿易の崩壊、体制の変更といった大きな話の対極として、意外に足元の混乱が短期間で終息に向かうという期待も込もった楽観論が台頭しているのも少々気持ちが悪い。
対中関税は最悪シナリオでも60%程度と見るのが定番であったのに対し、「145%」というとんでもない数字を出して来たトランプ政権を想えば、簡単に楽観論を持つのは危険かもしれない。
迷いは尽きないが、我々はこの渦中にいて、彼の一挙手一投足に振り回されていることだけは確かである。そして、様々な想像をするとともにもっとも可能性のあるシナリオと最悪シナリオくらいは想定しておくことが肝要だ。以下で見ていく。
BNPパリバ証券の3つのシナリオ
方法の詳細は割愛するが、新たに3つのシナリオを想定した。
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