読者アンケートに寄せられたり、編集部が取材する上で耳にしたりした年金運用のお悩みについて、年金運用コンサルタントとして活躍するニッセイ基礎研究所の徳島勝幸氏に尋ねます。

Q.年金収支がマイナスの企業年金は、どのように資産を運用すべきでしょうか。低流動性資産を組み入れても大丈夫ですか?

収支の確認が年金運用の第一歩

企業年金の運用に限らず、資産運用の出発点は、負債など運用対象となる原資の状況を確認することにあると言えます。

日本経済が高度成長の過程にあった時は、万事が右肩上がりの中で将来は明るいという期待に満ちあふれていました。しかし、総人口がピークを越えて減少に転じ、さらに生産年齢人口がより顕著に減少をはじめたため、中核層の負担は社会保障分野に限らず様々な面でより大きくなってしまっています。経済や社会が右肩上がりであることを前提に構築されたシステムは既に限界を迎えているのです。今後は、インフラや行政サービスのあり方を見直すことも不可避でしょう。

企業年金についても同様で、企業によって大きな差はありますが、従来の制度が実態にそぐわなくなって制度疲労に陥っている可能性があります。中でも、高齢化、総従業員数の減少、退職者数の増加、確定拠出企業年金などへのシフトなどから、年金収支がマイナスとなる例が多くなっていると考えられます。

年金収支がマイナスになると、運用対象資産はおのずから減少傾向になります。年金資産が増加する中での運用と、資産が減少する傾向にある中での運用は、必然的に異なるものにならざるを得ません。

流動性の確保と変動幅の抑制

資産が減少してゆく中での運用は、従来とは異なる観点からの注意が必要になります。まず、年金収支を賄うため、キャッシュのアウトフローに対する投資対象への配慮が必要になります。具体的には、今後の給付に利用するため、資産の流動性確保を意識する必要があるでしょう。

年金給付による流出に関しては、従業員構成や過去のデータから、かなりの精度で時期や金額を予測できるので、予測に基づいた流動性の確保をすれば良いのです。想定外の巨額な資金流出が生じることがあれば、国内債券など流動性の高い資産からキャッシュ化、その後、基本ポートフォリオからの乖離を修正する流れになります。

給付のためにキャッシュアウトが確実な金額に対しては、基本ポートフォリオとは別枠の給付対象ファンドを設定して、間近なキャッシュアウトに見合うよう短期資金と対応する年限の債券に置いておく対応も考えられます。幸いにして、日本銀行のマイナス金利政策が終了したことで、短期資金をポジションとして活用することが可能になっています。

一方で、年金収支がマイナスになっている状況では、資産の価格変動に対する許容度は低下している可能性があります。積立率や余剰率を維持できても、余剰の額は相対的に小さくなっているのです。そのため、保有資産の価格変動に対する脆弱性が拡大している可能性があります。VaR(バリュー・アット・リスク)や感応度分析などの手法を活用したリスク管理の徹底がより重要になるでしょう。

低流動性資産への取り組み姿勢

年金収支がマイナスになることや、閉鎖型年金であることが、すぐに低流動性資産への投資を停止する理由にはならないと考えられます。将来のキャッシュアウトを推計できれば、低流動性資産を保有することは十分に可能です。

極論すれば、保有資産の5%相当額の流出があるとしても、資産が枯渇するには、相当の年数を要します。単純な割算でも20年を要します。給付の開始となる年齢層の人数や金額、受取方法といったものをある程度精緻に見積もることで、低流動性資産への投資は十分に可能です。

低流動性資産への投資は、上場有価証券より効率性の低い市場を対象にするもので、流動性を犠牲にしたり資産管理の手間を掛けたりすることで、上場有価証券への投資より高い収益を目指す運用です。したがって、解約などに制限が付されていることが珍しくありません。その結果として、デューディリジェンスなどによる慎重な投資対象の選択が重要です。

年金資産が減少傾向にある企業年金が低流動性資産に投資する際には、セカンダリーでの投資やオープンエンドファンドを中心に選ぶといった取り組みもあるでしょう。

低流動性資産への投資に際しては、キャピタルコール(実際に投資を実行する段階でファンドから送金を求められること)によって徐々に資金投入額が増えるとしても、コミットメントの上限額があるので想定した金額に投資額を収めることは十分に可能です。

つまり、将来の運用可能資産とリスク許容度を見積もり、その範囲の中で工夫することで、年金収支がマイナスとなっていても、低流動性資産に投資することは可能と考えられるのです。

Q.為替リスクはどれくらいとることが適正でしょうか。また、為替オーバーレイ運用に取り組むべきですか?

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