9月は猛暑や大雨による旅行・レジャーなどの悪化が目立つ

宅森 昭吉
景気探検家・エコノミスト
宅森 昭吉

9月「景気ウォッチャー調査」では、現状判断DI(季節調整値)が47.8となり、前月より1.2ポイント低下したが、2カ月前の7月の47.5は上回った。方向性のデータである現状判断DIと異なり、現状水準判断DI(季節調整値)は47.9となり0.1ポイントと僅かに上昇、4カ月連続の改善となった。

旅行・交通関連やレジャー施設関連を含むサービス関連のDIは、現状判断では48.1と前月差▲3.5ポイント悪化したが、現状水準判断では51.6で前月差+0.6ポイント改善となったことが、全体の2つの現状判断のDIが逆方向に動いた主な要因だ。9月は猛暑や大雨といった天候による旅行・レジャーの悪化が目立つ。9月の函館・五稜郭タワーの入場者は前年同月比+32.8%と好調だったが、猛暑の中で9月の姫路城の入場者は前年同月比▲1.7%と2カ月連続マイナスになった。

サービス関連の現状判断DIの悪化は一時的な要因によるものと思われる。その証拠に、サービス関連の先行き判断DIは53.2と8月から1.0ポイント改善している。その他に猛暑の影響として、秋物衣料不振の衣料品専門店現状判断DIの悪さも目立った。

■景気ウオッチャー調査(24年8月・9月)・季節調整費
景気ウオッチャー調査
出所:内閣府

9月は「米不足」や「政権政党の総裁選」も現状判断DIの一時的悪化要因に。

『景気ウォッチャー調査』の特徴のひとつが、「世間の実感の見える化」ができることだ。『景気ウォッチャー調査』のDIは「良くなっている」から「悪くなっている」までの5段階の回答を1~0まで0.25刻みで点数化し、回答数で加重平均するものだ。注目される事象のワードに関するコメントだけから算出したDIを簡単に作ることが出来る。作成したDIから、その事象の影響を判断できる。すなわち「把えどころのない世間の実感」を数値として利用できる「見える化」ができる。

米の価格上昇も現状判断DIの悪化につながった。9月の「米不足」関連DIをつくると、現状判断は39.6と景気判断の分岐点50を大きく下回り、新米が出回り米不足は解消しつつあっても価格が大きく上昇したことを指摘するコメントが多くあった。但し、先行き米不足に触れるコメントは1件だけで、DIも50.0だ。「米不足」の影響は一時的と思われる。

また、調査期間の最終日の9月30日の日経平均株価大幅下落で、9月「政権政党の総裁選」関連現状判断DIは12.5と非常に低い数字になった。9月の「景気ウォッチャー調査」では、現状判断で4名、先行き判断で21名が「政権政党の総裁選」に関してコメントした。9月27日の自民党総裁選挙の結果が、日経平均株価へすべて反映したのは9月30日の月曜日だった。第1回投票で高市氏が優勢だったことから、27日金曜日の日経平均株価終値は39,829円56銭、前日比+903円93銭高をつけたものの、石破総裁に決まった反動が生じ、30日の終値は37,919円55銭、前日比▲1,910円01銭の大幅安になったことを反映したと思われる。

その後、日経平均株価は石破新総理の経済政策に対する過度な不安が解消し、10月11日には39,605円80銭まで戻っている。9月「政権政党の総裁選」関連先行き判断DIは46.4と景気判断の分岐点の50にかなり近い数字になっていて、景気ウォッチャーの判断も「政権政党の総裁選」は一時的とみていたことと、整合的だと思われる。

「猛暑の影響を受けたが、10月に入ると気候も良く」というコメント。

9月20日に、福岡県太宰府市では最高気温が35℃以上の猛暑日が今年62日目となり、国内の最多記録を更新した。9月の「猛暑」関連現状判断DIは43.4で8月45.6からさらに悪化した。なお、2~3カ月先の先行き判断での「猛暑」関連DIは9月55.6と景気判断の分岐点を上回る。今年は秋が来るのは遅かったが11月頃になれば気温が落ち着けば、景気に対するマイナスの影響が無くなることを期待していることを示唆している。

九州の商店街・代表者が「6月以降は猛暑により影響を受けたが、10月に入ると気候も良くなるため、今後に期待している」と、「やや良くなる」いう判断理由をコメントしている。

9月「価格or物価」関連現状判断DIは最近の低水準・6月からは改善。

6月「価格or物価」関連現状判断DIは40.6で23年1月の35.1以来の悪い水準になった。しかし、ドル円レートが円高方向に戻り、原油価格がWTI月中平均でみて7月約80ドル/バレル、8月約75ドル/バレル、9月約70ドル/バレルと落ち着いてきたこと(10月に入ると中東情勢緊迫化で上昇したが)、9月中旬の円ベースの入着原油価格が前年比マイナスに転じるなどの環境変化もあり、9月「価格or物価」関連現状判断DIは50を下回っているものの44.1まで改善した。

9月「実質賃金」関連先行き判断DIは60.7。実質賃金の統計がボーナス効果で前年比プラスになったことでマインドが変化か。

9月の賃金関連の判断DIは明るい兆しが見えたものが多かった。名目ベースの賃金自体は伸びている。毎月勤労統計・8月速報値の「所定内給与」が前年同月比+3.0%と31年10カ月ぶりの高い伸び率になった。こうした賃上げの動きが景気ウォッチャーにも実感されたとみられ、9月「賃上げ」関連現状判断DIは56.3、先行き判断DIは61.7とどちらも50超になった。冬のボーナスへの期待もあり9月「ボーナス」関連先行き判断DIは70.8と、7月57.1、8月68.8に続き70台まで上昇した。

「価格or物価」関連現状判断DIの改善に加え、毎月勤労統計の6月・7月実質賃金がボーナス効果で前年同月比プラスになったことが影響したのか、8月まで景気判断の分岐点50を下回っていた「実質賃金」関連判断DIは9月に改善した。現状判断DIは50.0になり、先行き判断DIは60.7と50超に転じた。

毎月勤労統計の実質賃金は8月速報値で前年同月比▲0.6%と再びマイナスに転じたが、9月には、デフレーターが0.5%程度低下することが見込まれ、実質賃金の前年同月比の再びのマイナス化の可能性もある状況だ。こうした賃金関連の判断DIの明るい兆しは先々の個人消費増加につながるものと期待される。

ただし、9月の「最低賃金」関連DIは現状判断DI35.0、先行き判断DI46.3とともに50割れとなった。最低賃金改定で収入が大きく増え消費が活性化するという家計のプラス要因と、最低賃金上昇分をすべて価格転嫁することは難しいという企業のマイナス要因のせめぎあいで、まだ後者が強いようだ。

■2024年7月・8月・9月の賃金関連DI
2024年7月・8月・9月の賃金関連DI
出所:内閣府データから筆者作成