ラッセル・インベストメントの金武伸治さんによる為替ヘッジ徹底解説。前回は、為替ヘッジの比率を動かさない固定ヘッジ(静的ヘッジ)について伺いました。中編の今回は、ヘッジ比率を動かす動的ヘッジ、なかでもダイナミックヘッジについて深掘りしてもらいます。

円高・円安の方向性の変化に対応

為替の動的ヘッジとは、どういった仕組みなのでしょうか。「固定」あるいは「静的」の反対ということは分かるのですが、具体的なイメージが湧きません。

金武 動的ヘッジとは、環境の変化に応じてヘッジ比率を変更する動的管理の手法です。例えば、円安時などヘッジをあまり必要としない局面ではヘッジ比率を引き下げ、円高時などヘッジを必要とする局面ではヘッジ比率を引き上げるといった具合です。そして、その「環境の変化」の定義によって、さまざまな動的ヘッジの方法があります。主に内外金利差や購買力平価などファンダメンタルズの変化に応じてヘッジ比率を変更する「ルールベース戦略」や、円高や円安のトレンド(方向性)の変化に応じてヘッジ比率を変更する「ダイナミックヘッジ戦略」といったものです。

当然ですが、ヘッジ比率を引き下げている期間は、その分、為替ヘッジコストを軽減することができます。一方で、その分の為替リスクを負うことになります。ただし、ヘッジコストは確定したマイナス・リターンですが、為替リスクはプラス・リターンにもマイナス・リターンにもなり得ます。このため、どのような動的ヘッジ手法に優位性があると考えるかがポイントとなります。

最大損失率を事前に設定

ダイナミックヘッジ戦略の基本構造を教えてください。

金武 ダイナミックヘッジ戦略とは、円高局面(為替損の発生時)ではヘッジ比率を引き上げることで損失の抑制を目指しながら、円安局面(為替益の発生時)ではヘッジ比率を引き下げることによって収益の獲得を目指す為替ヘッジ戦略です。また円高時の為替損を事前に設定した最大損失率(フロアと呼ぶ)以内にとどめることを目指すことが一般的です。フロアは基本的に年度ごとに設定します。年度来損失がフロアに達した場合は、その年度の戦略はそこで終了し、年度内にそれ以上の損失が発生しないように、年度末までフルヘッジを維持します。

【図表1】ダイナミックヘッジ戦略の基本構造と損益曲線(※イメージ図)
ダイナミックヘッジ戦略の基本構造と損益曲線
※クリックすると拡大します
上記はイメージ図であり、現実を忠実に反映したものとは限らない
出所:ラッセル・インベストメント

例えば、年度初にヘッジ比率=50%で戦略をスタートし、その後、円安が進行した場合には、ヘッジ比率を40%⇒30%⇒20%などと引き下げていきます。逆に円高が進行した場合には、ヘッジ比率を60%⇒70%⇒80%などと引き上げていきます。

こうすることによって、円安時に為替益を享受しながら円高時には為替損を抑制するような左右非対称な損益曲線を創出することができるのです。これはプット・オプション取引(予め決められた価格で売る権利)によるヘッジと損益曲線が似ていることから、ダイナミックヘッジ戦略はオプション取引によるヘッジを模倣しているとも言えます。ただし、オプションの場合は確実にフロアが守れることに対して、ダイナミックヘッジ戦略の場合は不確実性を伴うという違いがあります。

為替レートの上下動局面は苦手

ダイナミックヘッジ戦略の特徴はどういったものでしょうか。言い換えると、為替レートの変動に関して、どういった局面が得意あるいは不得意なのですか。

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