欧州の損害保険会社グループのアリアンツ・グローバル・インベスターズは、静岡銀行、日鉄ソリューションズ・グループのNSフィナンシャルマネジメントコンサルティング、周南公立大学とともに、銀行の収益強化を目指した金利リスク管理の共同研究を展開している。コア預金モデルの運用や改善のほか、他の金融機関とも情報交換や勉強会を実施する予定だ。

アリアンツ・グローバル・インベスターズ 地方銀行と連携し、コア預金モデルや 金利リスク管理の共同研究を展開
2024年7月の第2回会合には7行のリスク管理担当者が参加した

滞留するコア預金の価値を可視化して収益向上に活かす

日本では地方を中心に少子高齢化が進む一方、国内金利は久しぶりの上昇局面を迎えており、マイナス金利下の銀行経営では「コスト」とみなされてきた預金の重要性が見直されている。特に地方銀行の間では、引き出されずに滞留するコア預金の価値を可視化し、融資や事業の原資に活かすことが、今後の収益向上につながるとの意識が広がっている。

勉強会では2024年5月に初会合を開催。アリアンツ・グローバル・インベスターズ、静岡銀行、NSフィナンシャルマネジメントコンサルティング、周南公立大学のほか、コア預金再評価に力を入れる地方銀行6行のリスク管理を担当する行員が参加した。流動性預金のデュレーションを計測する数理モデル「コア預金モデル」の原型の構築者である同大学の木島正明教授は、学術面からサポートを行う。初会合では、今後もコア預金モデルに関する研究を進めるとともに、各行が抱える課題への対応について勉強会を継続していくことを共有した。

リスク管理やALMに関連する経営方針策定の判断材料とする

具体的には、コア預金モデルの算出結果は、「リスク管理」「ALM(アセット・ライアビリティ・マネジメント。資産・負債の総合管理)に関連する経営方針策定」「預金営業施策の策定」など多様な活用策があることを確認。また、目的に応じ、セグメントやパラメータの設定、モデルの設定を変えることで最適な判断材料を算出できる可能性があるとした。

その一方で、人口動態や金利環境の大きな変化を受けた改善点も整理。短期的・中長期的のそれぞれで課題の洗い出しを行った

いかに実質的な滞留期間が長いセグメントから預金を調達するか

参加者からは、

「これまでの我が国における預金量は増加の一途をたどってきたが、人口が減少に転じている中、将来、預金量も減少に転じる可能性も検討する必要がある」

「既存の(コア預金)モデルでは基本的には預金は増加する前提で設計されており、中長期的にモデルの改善が必要と思料」

「社内外の関係者にも容易に理解されるモデルの構築が必要」

「金利上昇を想定した場合、いかに調達コストの低い(実質的な滞留期間が長い)セグメントから調達できるかがALM上でも大きなポイントの一つになりえる」

「若い人の預金行動を分析して取り入れていく必要あり。オンライン銀行の残高増加、キャッシュレス決済の普及など。将来的には年齢ごとに預金特性が異なってくる可能性が高い」

「(コア預金の)最長満期は10年が圧倒的に多いと感じている。5年や15年に設定している銀行も少数ではあるものの存在する」

「どういった目的でコア預金のデュレーションを推計するか、リスク管理目的なのか経営戦略目的なのか。それによってはモデルで推計される残高推移の見える場所が異なってくる」

――などの意見が出た。

■欧米における預金者のニーズと銀行側の取り組み
欧米における預金者のニーズと銀行側の取り組み
出所:アリアンツ・グローバル・インベスターズ

欧米では2022年の利上げ以降、銀行の預金量は減少ないし停滞

共同研究は2024年7月に第2回会合を開催。報告会では、多くの地域金融機関が今後10年以内に預金全体が減少に転じる可能性があると考えていることが意見交換された。このほか、コア預金モデルの運用に関しては、「専門性が高いため、モデルを理解するのが難しい」「金利上昇などこれまでなかった経営環境になりつつあるが、長年同じモデルを使用している」など、モデルの浸透や理解に対する課題が指摘された。

続いて、アリアンツ・グローバル・インベスターズが欧米銀行の預金動向について解説した。米国や欧州では預金量は増加傾向にあったが、2022年以降の利上げの影響を受けて足元の預金量は減少ないし停滞していると指摘。MMFなど預金代替物への資金移動が進んだ欧米の銀行業界では、預金者の資金利益ニーズに対しては預金利率の引き上げ、利便性ニーズに対してはALMの高度化、資金の安全保管ニーズに対しては複数の銀行連携よる相互預金ネットワークなどの預金保険の新しい取り組みで対応していると分析した。

共同研究では今後も会合を重ねるとともに、貯金者向け調査なども実施する予定だ。銀行経営の根幹を成すALMについて定量・定性両面から多角的に研究を行い、業界全体で“知”の共有を図りながらALMの高度化、さらには地域経済の発展への貢献を目指す。