商業用不動産を巡るリスクの総点検・第2回 商業用不動産市場の現状
米欧を中心に商業用不動産(CRE)市況の悪化やそれに伴う銀行の経営不安などが懸念されています。2024年2月には米地銀ニューヨーク・コミュニティ・バンコープ(NYCB)やCRE向け融資専門の独中堅ファンドブリーフ銀行で関連損失が明らかになり、市場に動揺が広がりました。また、米連邦準備理事会(FRB)が2023年10月に公表した金融安定報告書の中でも金融システムに対するリスクとして、インフレと並んでCREが挙げられました。市場の中でもCREに関するリスクが懸念されている一方で、多くの取引がプライベートであることや様々な資産クラスやセクターが関係することも相まって、その全体像を見通すのはなかなか容易ではありません。
本連載ではCRE市場と関連する資産クラスの動向について解説することで、そのリスクの所在と大きさをできるだけクリアにしたいと考えています。第2回ではCRE市場の現状について具体的なデータで確認していきます。
1.低迷するオフィス需要
まず、米国CREの現況を示す指標として図表1にセクター別の空室率を掲載しています。まず目に付くのがオフィスの空室率の高さです。直近のオフィスの空室率は19.6%と過去最高を記録しています。それまでの最高値は米貯蓄金融機関(S&L)危機の最中であった1991年などであったことから、パンデミック後のオフィス需要低迷の深刻さがうかがい知れます。住宅ローン金利の上昇によるロックイン効果(借り換えや買い替え控え)が需要を下押ししている集合住宅も徐々に軟化しつつある傾向が見て取れます。相対的に堅調なのは商業施設と産業用です。商業施設の空室率は横ばいな一方、Eコマースに加えてリショアリング(生産拠点の国内回帰)やニアショアリング(近隣移転)需要を背景に産業用の空室率は低下傾向にありましたが、足元は金利上昇が需要を下押しする中、空室率に上昇の兆しがうかがえます。
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