不動産セクターのソフトランディング

HSBC 大中華圏担当 チーフエコノミスト ジン・リュー
HSBC
大中華圏担当 チーフエコノミスト
ジン・リュー

中国の干支である龍は、力と権威そして知恵を象徴しており、辰年は心から歓迎される年であると言って過言ではない。

現在の経済情勢では、不動産セクターの調整、地方政府債務問題そしてデフレ圧力を懸念する見方が大勢であるが、住宅やインフラといった旧来の経済成長エンジンの動きを維持しつつ、新たな成長エンジンの動きを加速させるためには、財政政策を柱とする強力な政策的支援の組み合わせが必要であろう。そのような対策が、今後数四半期にわたり消費の勢いの持続を促すことになる。

当社は2024年の中国経済は5つの重要なマクロテーマに下支えされて好転すると考えている。

■2024年のGDP成長率は年率4.9%に達する見通し
■2024年のGDP成長率は年率4.9%に達する見通し
※2020年は新型コロナの感染拡大の影響で公式の経済成長率目標は設定されていない。2024年の実質GDP成長率目標はHSBC推計に基づく。2023~24年の実質GDP成長率予想はBloombergまとめの市場コンセンサス予想
出所:Bloomberg

第1のテーマは、当社の基本シナリオの不動産セクターのソフトランディングである。中国政府は先に、新たなデュアルトラック住宅開発モデルを発表した。これは営利目的で一般市民に販売するための住宅開発などが行われる商品住宅市場と公共住宅市場とを分離することを念頭に置いたものである。

この新しい政策モデルについて当社は、商品住宅市場における住宅購入に係る規制が一段と緩和されることと、公共住宅が全体に占める比率が現在の約20%から大幅に増加することを想定している。従って、公共住宅が供給過剰を吸収し、不動産セクターの広範なリバランスに貢献するであろう。中国政府は住宅市場を支援する意向を示しており、これは2023年12月に公約した3500億人民元の担保付き補完貸出の手段による大規模な資本注入に反映されている。

第2に、底堅い消費が経済にもたらす恩恵である。新型コロナウイルス禍後経済活動が再開されて以来、消費は2023年のGDP(国内総生産)成長率の80%以上を担う経済成長の原動力となってきた。2024年の消費の伸び率は前年比7.0%と当社は見込んでいる。家計の資産の3分の2以上を住宅が占めていることから、住宅市場が安定すれば消費者信頼感に弾みがつくであろう。

2023 年には平均的世帯の貯蓄率の傾向的水準が、感染危機時につけたピークの約35%から約30%まで低下したが、なお世界最高水準にある。中国政府は、特に低所得層の消費をさらに拡大させ、一段の社会福祉を提供していくことを優先している。

デフレの影からの脱却

第3は中国政府が、2023年第4四半期に政策支援を強化し、特に政策協調を強化する方針を示したことだ。中央政府がより大きな役割を果たすことで、財政政策が今後の道を主導することになり、戦略の転換になると考えられる。広義の財政赤字は、2023年と同様に8%前後に達すると予想している。中国人民銀行は、2024年2月に預金準備率を50bp(ベーシスポイント)引き下げたが、下期には政策金利を20bp 引き下げる可能性が高いと見ている。

第4として、「ニューエコノミー」、特にEV(電気自動車)の分野での発展が期待されるが、旧来のオールドエコノミーの成長の原動力の減速を相殺するにはまだ規模が小さすぎると考えられる。しかし、不動産や地方政府への支援拡大が、旧来の推進力の動きを維持し、また、政策によって新たな推進力が加速する可能性が生まれる。

第5のテーマは、デフレの影からの脱却である。中国のGDPデフレーターは、2023年の大半を縮小の領域で推移したが、当社は今後について慎重ながらも楽観視している。食品のような不安定な構成要素がCPI(消費者物価指数)の重石となっているが、2024 年はその足かせが弱まるだろう。地政学的緊張の高まりと国内住宅市場の安定化の可能性を背景に、コモディティ価格も上昇リスクに直面している。全体として、2024年は、ヘッドラインCPIが0.5%上昇、コアCPIが0.9%上昇、生産者物価指数は0.0%の横ばいになると当社は予想している。