大株主の地位を濫用して子会社が年金運用を行う事例も

金融庁の森信親長官は、法律の強制によって改善を促すことはできればやりたくないと言っている。警察に捕まるから仕方なく改革する、捕まらなければいいというのはおかしいのではないか。私もその通りだと思う。これまではハードロー(法的拘束力がある規範)でやってきたが、ほとんど改善が進まなかったので、これからはソフトロー(法的拘束力のない規範)で改革を進めようという考えのもとでつくられたのがコーポレートガバナンス・コードだ。

コードに追加される原則には2つの項目がある。前段は「適切な経営資源の配置」で、後段が「利益相反管理の徹底」だ。前段では企業年金を担当する人材として、資産運用について熟知し、運用会社と対話できる専門家を充てることと、人事面での取り組みに関する状況の開示を求めている。

後段の利益相反管理の徹底は、具体的に何をすればいいのか。利益相反が疑われるような運用会社の選び方をやめることだ。

本来であれば、経営資源の管理のなかに利益相反管理が含まれてしかるべきだ。人事だけでなく、運用会社の状況もすべて開示するのが理想だが、現状では抵抗が大きいと思われる。

一部の運用会社では、親会社の大株主としての地位を濫用して、企業年金の運用を引き受けさせている例が見受けられる。なかには運用会社単独で営業に来ることはなく、親会社の担当者が必ず同行するような運用会社もあると聞いている。ある大企業では、歴代の財務部長が特定の金融機関の出身で、その金融機関が企業年金を牛耳っているそうだ。米国でこのようなことが起きたら、即座に摘発されるだろう。

実効性のあるコードの確立で年金運用の「創業元年」に

年金は従業員の独立した権利であって、企業の資産ではない。それを企業の都合で勝手に扱うことは許されない。企業による年金基金の私物化がまかり通る現状で運用会社の開示を求めたら、おそらく大変なことになるだろう。

それでも、コードに企業年金の利益相反管理について明記されることは大きな意義がある。改訂されたコードを企業が採択すれば、株主総会などで説明を求められたときに答える義務が生じる。株主に問い詰められるのは嫌だからと、年金運用には親会社と取引がない運用会社を選ぼうという機運が高まれば、米国のエリサ法と同じ状況となり、企業は資産運用の能力で運用会社を選ぶようになるはずだ。

取引金融機関や株主のしがらみで運用会社を選ぶ慣行がなくなれば、一部の運用会社は運用残高を大きく減らしてしまうことになるため、コードの改訂を快く思わない人もいるだろう。でもそれは今までの状況が異常なのであって、今後は企業から選んでもらえるように運用力を高めればいい。それが資産運用のあるべき姿だ。

資産運用業界も徐々に変わってきている。例えば野村ホールディングスではフィデューシャリー・デューティー宣言を行い、野村證券と野村アセットマネジメント、野村ホールディングスの3社間の人事交流をなくした。他社でもこうした動きが広まれば、年金運用の悪しき慣行は崩壊に向かい、急速に変革が進んでいくのではないか。

コーポレートガバナンス・コードが改訂され、実効性を伴う制度が確立する2018年が、本当の年金運用が始まる「創業元年」になることを期待している。

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