インフレ抑制目的の連続利上げには至らない
2023年11月9日に発表された日銀の金融政策決定会合(10月30~31日開催分)の「主な意見」には、以下のようなマイナス金利解除を念頭に置いた示唆的な発言が挿し込まれていた。
将来の出口を念頭に、市場機能を重視した価格形成や債券市場を中心とした流動性改善のほか、低金利が続いただけに「金利の存在する世界」への準備に向けた市場への情報発信を進めることが重要である。
前半の債券市場の価格形成に関しては日銀の介入度合いが低下していくことを示したに過ぎないが、後半は消費者の「誤解」や「過剰反応」に対する警戒も含まれていそうだ。2022年12月以来、断続的に実施してきたYCC(長短金利操作)の解体作業によって長期金利が上昇すると、メディアでは固定型の住宅ローン金利が上昇したことについて大きく取り扱われている。
今後、日銀が短期金利引き上げに動く際はローン契約者の約8割に利用されている変動型金利(多くは短期プライムレートに連動)が、どれくらい上昇するかについて報道が過熱する公算が大きい。仮に家計が将来的な利上げを警戒すれば、個人消費は下押しされる。また繰り上げ返済に動くなら、それは消費に回るはずだったおカネが家計部門から移動してしまうことを意味するので、消費に下押し圧力がかかる(負債が減り将来不安が和らぐ側面もあるが、短期的には下押し圧力が勝ると考えられる)。
このように「金利が存在する世界」に人々が上手く順応できない場合、定量的にはさほど引き締め効果を持たないと推計される利上げ(例えば短期金利をマイナス0.1%からプラス0.1%に引き上げる)が強力な引き締め効果をもたらしてしまう可能性がある。こうした事態を日銀は警戒しているのではないか。
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