貿易収支は改善が続くも赤字基調からは脱却できず
燃料輸入の減少で貿易収支は大幅改善
貿易収支の改善が続いている。輸出から輸入を差し引いた貿易収支は、2022年度に21.8兆円の赤字となったが、2023年度上期(4~9月期)の赤字幅は3兆円台まで縮小したとみられる。
営業日数要因などを考慮した季節調整値から月次の動きみても、2022年の夏場にかけて月次ベースで2兆円を超えていた貿易赤字は、足元で5000億円前後の水準まで縮小している。
貿易赤字が縮小している最大の要因は鉱物性燃料の輸入額の減少だ。原油やLNG(液化天然ガス)を中心とした鉱物性燃料の貿易収支(月次ベース)は、2022年後半にかけて3兆円前後まで膨らんでいた。新型コロナウイルスの感染が広がる前と比較してほぼ倍の規模である(図表)。
しかし、2023年に入ると赤字幅は徐々に縮小し、足元では2兆円程度まで縮小している。燃料輸入の減少によって月次ベースの貿易収支は最悪期から1兆円程度改善したことになる。
燃料輸入額の減少は、価格面と量的な面の双方が寄与している。2022年にかけて1バレル110ドルを超えていた原油価格は2023年前半にかけて1バレル70ドルを割り込み、LNGの価格も大きく下落した。また、国内の生産活動の減速を背景に原油の輸入量が減少したほか、一部の原子力発電所の運転が再開されたことを受けてLNGの調達量も減少している。
ワクチン輸入の減少も貿易収支の改善に寄与
半導体不足がほぼ解消するなど供給制約が緩和してきたことも貿易赤字縮小の一因である。とりわけ、自動車産業では半導体不足の影響が大きかったが、このところの半導体不足の緩和を受けて自動車輸出は持ち直している。
2023年4~8月合計の自動車輸出台数は前年同期比24.4%増、金額ベースでは前年同期に比べて2.0兆円増加している。月次ベースの貿易収支の改善効果は4000億円程度となる。
新型コロナウイルスの感染収束に関連してワクチンの輸入が減少している影響も小さくない。医薬品の貿易収支は2022年度が4.3兆円の赤字、月平均では約3600億円の赤字だったが、感染が沈静化した2023年4~8月の赤字額は月平均で1600億円まで縮小している。
自動車輸出の持ち直しとワクチン輸入の減少を主因に、燃料を除く貿易収支の黒字幅が拡大している。
当面も貿易赤字からは脱却できず
足元の貿易収支は2022年に比べると大幅に改善したとはいえ、赤字基調から脱却できたわけではない。鉱物性燃料の輸入額をコロナ禍前の水準まで抑制することができれば、貿易収支の黒字転換も視野に入るが、そのための条件は原油価格が1バレル60~70ドル、為替相場が1ドル110~120円程度と試算される。現状の相場環境を考えると、鉱物性燃料のもう一段の収支改善は難しい。
また、ここまでの自動車輸出の回復については、供給制約で落ち込んでいた反動が加わった側面もある。現地販売ディーラーの在庫補充が進展したことで、この先は巡航速度の出荷ペースにスローダウンしていくと予想される。
金融引き締めの影響で世界経済の回復力も弱く、素材製品や機械類の輸出は当面も低調な動きが続くとみられる。半導体サイクルが上向きに転じてきたことは、今後の日本の輸出にとって追い風になるものの、輸出全体の回復ペースは緩やかにとどまると予想される。2023年度の貿易赤字は7~8兆円程度と前年度の21.8兆円から大幅に改善するものの、2024年度も5兆円程度の赤字が続くと予測している。