来日したコムジェスト・グループ CIO(最高投資責任者)兼 欧州株式ポートフォリオマネジャーのフランツ・ワイス氏に2023年の欧州株式市場の動向や注目点などを聞いた(取材日:2023年6月15日)。

年初来堅調な欧州株式市場。金融不安は広がらず

コムジェストCIO
コムジェスト・グループ
CIO / アナリスト/ ポートフォリオマネジャー / マネジングダイレクター
フランツ・ワイス

欧州株式市場の足元の動向は。

ワイス 欧州株式市場は2022年の大幅下落からのリカバリーで、2023年初来、力強く回復し始めている。2022年は金利上昇やエネルギー危機が懸念されたものの、比較的暖冬であったことや、欧州各国政府がロシア以外からエネルギーを調達できたことなどから、市場参加者の予想より欧州経済への影響は限定的だったと振り返る。

足元での失業率は依然として低く、また個人消費も健全だ。インフレ率は5%前後と高い水準にはあるが、低下し始めていることは喜ばしい。

米国中小銀行の破綻やUBSによるクレディ・スイス買収をどう見ているか。

ワイス シリコンバレー銀行をはじめとする米国の中小銀行の破綻が、2009年の世界金融危機や2011年の欧州債務危機時のようなショックに繋がるのではないかという懸念が生じた。しかしながら、クレディ・スイスが企業内部に問題を抱えていたことは数年前から知られており、スイスの規制当局も注意深く監視していた。さらに、世界金融危機後の規制強化の下、多くの欧州銀行のバランスシートは強化されていたため、金融不安はそこまで広がっていないように思われる。

欧州銀行のバランスシートの健全性、監督規制、そして危機時の支援メカニズムを考えると、欧州銀行セクターは以前よりはるかに良くなっていると言えるだろう。

テクノロジー、ヘルスケア、ラグジュアリーセクターのグローバルリーダー企業に投資

欧州株式の中で、注目のセクターや地域は。

ワイス コムジェストはボトムアップで個々の企業を分析し、質の高い成長企業を見つけ出す投資スタイルのため、セクターや地域といった括りで分析することはしていない。

ただ、我々のポートフォリオでエクスポージャーの大きいセクターを強いて挙げるならば、「ヘルスケア」と「テクノロジー」だろう。なぜなら、ヘルスケア業界にとっては高齢化、テクノロジー分野ではデジタル化や自動化といったメガトレンドが追い風になっているからだ。

加えて、これらのセクターは、イノベーティブであること、そして参入障壁があることもポイントだ。例えば、あるソフトウェアが一度インストールされれば、頻繁にリプレイス(入れ替え)されることは考えにくい。医療分野において、特許保護があったり、現場の看護師や医師がそのシステムに慣れたりしている場合、使用している製品を変えるハードルは特に大きくなるだろう。

ヘルスケアとテクノロジー以外だと、消費財セクターの中で「グローバルラグジュアリーブランド」を強く選好している。コムジェストではエルメスやLVMH、フェラーリなどに投資しているが、これらのブランドは特定の地域に限らず国際的な魅力を持っている。

つまり、どこに本社があるかは問題ではなく、グローバルに事業展開し、世界の発展や成長トレンドの恩恵を受けられるかどうかが重要だ。

欧州株式市場の今後の見通しは。

ワイス 欧州中央銀行はインフレ目標を2%としているため、さらなる利上げが予想される。2023年に入り欧州株式市場が堅調に推移していると述べたが、それは2022年からのリカバリーとしての見方である。高インフレ率が維持されるならば、株式市場が前進し続けることは難しいだろう。それゆえ、経済成長の見通しは当面緩やかになるとみている。

一方で、政治やマクロ経済、インフレなどの動向に関わらず、成長し続ける企業に厳選して投資すれば、2009年の世界金融危機のような甚大なショック時でも市場をアウトパフォームすることは可能と考える。

日本の機関投資家にメッセージを。

ワイス 欧州というと、国として低成長だと思われがちだ。しかし、アップル社への投資を考えるとき、カリフォルニアや米国の経済について考える人は少ないのではないだろうか。欧州企業への投資においても同様に、世界のニーズに応えるイノベーティブな成長企業を選定できるかがカギとなる。特に日本の投資家からの注目度は高くはないが、欧州企業は自国の市場規模が小さいことから、創業期から世界展開を視野に入れた投資を継続し、各地域のニーズを捉えている魅力的な投資先企業が複数存在することを知っていただきたい。

コムジェストは「企業が創出する利益の伸びが、長期的な株価に反映される」という哲学に基づき投資を行っている。投資先企業の長期的な業績の成長から恩恵を受けるべく、優良な成長企業の選別に引き続き注力していきたい。