ウェルスマネジメント業界への提言 【第3回】グローバルな投資力と日本への適応力で応える富裕層ニーズ金子 謙太郎氏(UBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメント 取締役 営業本部長 マネージングディレクター)
日本では近年、富裕層・準富裕層の増加や資産形成ニーズの高度化を背景として、ウェルスマネジメントへの関心が着実に高まりつつある。本連載は、日本におけるウェルスマネジメントに対する理解や普及を目的として、先行して成熟してきた欧米の取り組みなどグローバルな視点からその本質や最新動向を考察するものである。
第3回は、スイス発祥のグローバル金融機関であるUBSと、三井住友信託銀行の強みを組み合わせ、日本におけるウェルスマネジメント事業を展開するUBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメントの金子謙太郎氏を迎える。外資系金融機関にとって難しい市場とされる日本で、同社はどのように富裕層顧客に向き合い、事業を拡大してきたのか。その戦略と今後の展望を聞いた。
監修:国際社会経済研究所(IISE)

取締役 営業本部長 マネージングディレクター
金子 謙太郎氏
1987年 早稲田大学政治経済学部経済学科卒、1992年 ジョージ・ワシントン大学経営大学院経営管理学修士課程修了(MBA)。1987年 大和銀行入社。1995年シティバンク、エヌ・エイ、2005年 ロンバー・オディエ・ダリエ・ヘンチ・ジャパン(現ロンバー・オディエ信託)を経て、2010年UBSグループ入社。2023年から現職
日本市場における強みの源泉
外資系にとって難しい日本市場で、競争優位をどう築いてきたのか。
金子 まず前提として、UBSが考えるウェルスマネジメントは、日本でしばしば見られるマスリテールの延長線上の富裕層ビジネスとは発想が異なる。
当社は、当初から富裕層顧客に必要なサービスを提供する事業としてウェルスマネジメントを位置づけてきた。日本では2004年の事業開始以来、欧州型のユニバーサルバンキングを原点に、銀行と証券を一体的に活用するところから始めている。
日本のウェルスマネジメント市場は、参入は容易だが、残ることが難しい。国内金融機関が預金、法人融資、住宅ローンなどを通じて国内市場を「面」で押さえ、安定した収入源を持つのに対し、外資系は広範な顧客基盤を持ちにくく「点」で顧客をカバーせざるを得ない。その結果、プロダクトプッシュによるトランザクション収益(売買手数料ベース)中心となり、安定した収益基盤を築きづらいことが苦戦の主因と考えられる。
一方、当社が競争優位を築いてきた背景には、次の3つの要素がある。第1が、お客様に最適な投資をしていただくためのグローバルな体制だ。これを「投資力」と呼んでいる。
UBSには、グローバルで約250人規模のCIO(チーフ・インベストメント・オフィス)部門があり、ウェルスマネジメントの視点から富裕層顧客向けのハウスビューを策定している。一般的な証券会社のアナリストが、機関投資家向けにリサーチを提供する「セルサイド」の目線で分析を行うのに対し、当社のCIOは、顧客の資産全体をポートフォリオとして管理する視点に立ち、機関投資家さながらのバイサイド思考で投資判断の軸となるハウスビューを構築している。
UBSはスイスのプライベートバンクとして、このハウスビューに沿った長期的・体系的な資産配分を可能にする商品ラインアップを持つ。また当社のクライアントアドバイザー(営業員)は個別商品に頼るのではなく、ハウスビューに基づく戦略的資産配分を踏まえた長期的なポートフォリオ提案を行う。このリサーチ力と商品提供・提案力の双方を支えるグローバルな投資力が競争力の源泉になっている。
第2が、日本市場への適応力である。日本の富裕層顧客は税務、相続、不動産など、資産運用にとどまらない幅広いニーズをもつ。一方で、そうしたニーズに応えるには、日本の法制度上、UBS単体では対応が難しい領域もあった。
そこで大きな意味を持つのが、三井住友信託銀行との協業である。UBSのグローバルな投資力と、三井住友信託銀行の信託機能、不動産業務、法人ソリューションなどを組み合わせることで、包括的な提案と実行が可能になった。当社は単なる業務提携ではなく、双方が強みを持ち寄るジョイントベンチャー(出資比率:UBS証券51%、三井住友トラスト・ホールディングス49%)という事業体制をとっている。
第3が、長期的なアドバイスモデルの確立である。従来のプライベートバンキングでは、クライアントアドバイザーと顧客の一対一の関係が中心だった。しかし現在は、クライアントアドバイザーが顧客と長期的な関係を築きつつも、投資、融資、信託などの各専門家が連携し、組織的な「チーム」として顧客の複雑な課題を支えるモデルへと移行している。資産規模が数十億円にものぼる富裕層顧客はもはや一つの事業会社に近い。事業法人に対するM&A(合併・買収)や資産運用の高度なノウハウを個人の資産管理にも生かす「One UBS」の体制と、先ほど触れた三井住友信託銀行との協業が、こうしたチーム対応を可能にしている。
第1で述べたCIOの見解に基づく提案とこの長期的なアドバイスモデルの確立により、収益全体に占めるリカーリング収益(アセットベースの収益)の比率はトランザクション収益を上回り、約6割に高まっている。

個人、家族、事業を一体で支える
日本の富裕層顧客はどのように変化し、貴社はその特徴やニーズにどう向き合っているのか。
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