購買力平価ベースのGDP(国内総生産)で米国を凌駕し、「21世紀半ばまでに人民軍を世界トップクラスの軍隊に完全に変貌させる」べく覇権主義を強める中国。それに対して第2次トランプ政権は、2005年1月の発足以来、相互関税とエネルギー覇権を通じた経済戦争を展開してきた。5月中旬に予定されている米中首脳会談において、米国は、第三の矢として、「通貨戦争」を仕掛けるのではなかろうか。

  • 「第二のブレトンウッズ」崩壊に成功した米国
  • 依然として大幅に過小評価されている人民元
  • 中国は人民元の基軸通貨化を目論む

「第二のブレトンウッズ」崩壊に成功した米国

梅本徹
J-MONEY論説委員
梅本 徹

1990年代以降、中国は、人民元を1ドル=8元を超える割安水準に誘導していた。これを問題視した米国では、2000年代の半ばに中国の固定相場制を「第二のブレトンウッズ」と呼び、変動相場制への移行を迫る動きが強まった。連邦議会では、1971年の「ニクソンショック」に倣い、ニューヨーク州選出のシューマー上院議員によって27%の関税引き上げが提案された。しかし、当時のブッシュ政権は、金融市場の混乱を避けるために、G7財務相・中央銀行総裁会議の場に中国の代表者を招待し交渉を行うというより穏健な方策を採用した。その結果、米国は、2005年に、中国にそれまでの固定相場制を破棄し、人民元の管理変動相場制(ダーティーフロート)へ移行させることに成功している。

依然として大幅に過小評価されている人民元

この時採用された管理変動相場制によって、人民元は2014年に1ドル=6元近辺まで切り上げられたが、2022年以降は、再び1ドル=7元近辺の水準で推移している。しかし、IMF(国際通貨基金)が算出している人民元の購買力平価を見ると、1990年代の終わり以降1ドル=3元から4元の間で推移してきており、依然として人民元の市場レートは購買力平価に対して大幅に過小評価されていることに変わりなく、これが中国の輸出競争力の源泉となっている(図表)。

■ドル人民元相場の市場レートと購買力平価の推移
ドル人民元相場の市場レートと購買力平価の推移
出所:IMFなど

中国は人民元の基軸通貨化を目論む

米国は、5月中旬に予定されている米中首脳会議を皮切りに、不動産バブル崩壊に加え関税と原油高による経済疲弊に窮する中国を、二国間交渉を通じて、人民元の完全変動相場制移行に追い込む可能性が少なからずあると筆者はみている。そして、覇権主義を強め、人民元をドルと肩を並べる基軸通貨に地位にまで引き上げようと目論む中国にとって、ダーティーフロートをやめて人民元を完全な兌換可能通貨とすることは避けて通れぬ道でもあろう。米国が近い将来中国に対して「通貨戦争」という第三の矢を仕掛けるというシナリオは、あながち「絵に描いた餅」と完全に言い捨てることはできまい。