JリートのESG取組調査2025 業界全体が示す「質」重視への移行不動産証券化協会(ARES)
Jリート(不動産投資信託)は本年、市場創設25周年という節目を迎える。資産規模が24兆円にまで拡大してきた中で、環境・社会・ガバナンス──ESGへの対応は、もはやJリートにおける前提条件のひとつとなっている。その現在地を示すのが、2002年に金融庁・国土交通省所管の社団法人として設立され、機関投資家向けに不動産証券化市場の情報提供を担う不動産証券化協会(ARES)がJリート全58投資法人を対象に実施した調査だ。2023年度に創設し、2026年度中に第3回の開催を予定する「ARES ESGアワード」も、その質的深化を後押しする取り組みのひとつである。Jリートにとって節目の年に、調査が示す数字は何を語るのか。環境(E)対応の定着
自然資本へ広がる射程
ARESが協会の実行戦略・工程表の策定にあわせて環境不動産割合の調査を開始した2021年度、環境性能に関する認証を取得した「環境不動産」が全保有不動産に占める割合は62.6%だった。それから4年。ESG取組調査全体が始まった2023年度以降も上昇基調は続き、2025年度の調査では76.4%に達した。調査開始以来、この数値が前年を下回ったことは一度もない(図表1)。

環境対応は、Jリート市場において特別な取り組みではなくなった。気候変動に関するリスクと機会の情報開示を求める国際的な枠組みであるTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)フレームワークに則った情報開示は87.9%、 GHG(温室効果ガス)排出量の把握率は94.8%(図表2)、GHG削減目標の設定率は93.1%と、主要な環境指標のほとんどで、9割前後のJリートが対応済みという状況だ。
認証取得の状況も同様だ。建物の環境性能を総合的に評価する国内認証制度であるCASBEE(建築環境総合性能評価システム)は53法人、BELS(建築物省エネルギー性能表示制度)は50法人、グリーンリース契約の締結は51法人と、全体の8割以上が主要な環境認証に対応している。環境対応は、もはやJリート市場全体の「前提条件」として定着した。
取り組みの質も上がっている。科学的根拠に基づいたGHG削減目標の第三者認定であるSBT(科学的根拠に基づく温暖化ガス削減目標)認定を取得したJリートは、2024年度の14法人から20法人へと増加した。水・廃棄物の排出量把握率も84.5%から94.8%へと10ポイント以上伸びており、GHGにとどまらない環境データの管理体制が整ってきた。再生可能エネルギーの活用率も87.9%に達しており、個別の施策レベルでも対応の裾野は着実に広がっている。環境マネジメントシステムの導入率も63.8%と、組織として環境対応を継続的に管理する仕組みを持つJリートが増えてきた。
そして現在、その射程は気候変動の外側にまで広がっており、生物多様性の保全に関する方針を策定しているJリートは約6割に達し、2024年度から8.6ポイント上昇した。気候変動対応という入口から始まったJリートの環境への取り組みは、自然資本全体を視野に収めるものへと変わってきている。
社会(S)開示の広がり
人的資本が可視化される
こうした環境分野での変化と同じ構造が、社会分野でも進んでいる。2025年度調査では、人権擁護のための方針、従業員の多様性に関する方針、労働安全衛生に関する方針、いずれも策定率は9割前後と、すでに高い水準に達している。サプライヤー行動規範の策定率も62.1%と、取引先を含めたサステナビリティへの意識が広がっていることが分かる。
注目されるのは、方針の策定にとどまらず、実態が開示され始めていることだ。本調査で、有給休暇の取得率を開示しているJリートは41法人、育児・介護休職制度の利用率は40法人、従業員一人当たりの研修時間又はコストを開示しているJリートは34法人となった。柔軟な勤務形態を認める人事制度の整備については49法人が取り組み内容を開示。前年から5法人増加しており、「人」への投資がどのように行われているかを、投資家が具体的に評価できる環境が整ってきた。
また、不動産投資を通じて社会課題の解決を意図するインパクト投資を実施しているJリートが約1割確認されたことも、今回の調査の注目点のひとつだ。不動産というアセットクラスを通じて社会的な価値を生み出す発想は、まだ萌芽段階にある。しかし、開示が「何を目指すか」から「何をしているか」へと重心を移している点は、重要なステップアップの証左だろう。
ガバナンス(G)の深化
財務・非財務一体の開示も
実態の可視化という動きは、組織の根幹であるガバナンスの領域でも鮮明に表れている。
図表3のようにサステナビリティに関する推進体制の構築率は94.8%、サステナビリティ委員会又は専任部署を設置しているJリートは86.2%に上る。体制の整備状況は、すでに高い水準に達している。
その上で今回の調査が示したのが、役員会・取締役会への女性参画の広がりだ。参画率は74.1%と、前年から10.3ポイント上昇した。体制の「有無」ではなく、その「質」が問われるようになってきたことを示している。
マテリアリティ(重要課題)の特定率は84.5%、そのうち75.9%がSDGs(持続可能な開発目標)と紐づけて特定しており、非財務目標の設定率は79.3%に達する。統合報告書の作成率も72.4%と、財務・非財務情報を一体として開示する動きが広がっている。内部通報制度の設置率は84.5%と、組織の透明性を高めるための仕組みも定着してきた。
資金調達・市場評価に直結するESG要素
環境、社会、ガバナンス。3つの分野を通じて見えてくるのは、業界全体でESG対応の重心が移動しているという事実だ。宣言や方針の策定が一巡し、今問われているのはその実質である。
この変化は、Jリート市場の外側でも裏付けられている。Jリートの有利子負債残高に占めるサステナブルファイナンスの割合は年々増加しており、2025年10月時点で20%弱の水準に達した。
2026年以降、機関投資家がJリートのESG対応を評価する際の軸も、おのずと変わってくるだろう。取り組んでいるかどうかではなく、どこまで実質を伴っているか。今回の調査が示したのは、その問いに正面から向き合う準備が、Jリート市場全体で整ってきたという事実だ。
加えて、見落としてはならないのが、その水準の高さである。事業会社では気候関連ガバナンスの開示率が約3割、時価総額1兆円以上の大企業でさえGHG排出実績値の開示率は約8割にとどまる。対してJリートは、先述のようにGHG排出量の把握率94.8%、サステナビリティ推進体制の構築率94.8%と、いずれも9割超の水準にある。この数字は日本のJリート業界がESG分野で先進的な地位を確立しつつあることを物語っている。25周年という節目において、ARESは、第3回となるアワードの開催も通じて業界の取り組み深化をさらに後押しする。
ARESは本記事に記載されているデータの正確性や完全性を保証するものではありません。



