Crisil Coalition Greenwich 運用ビジネスを持続可能に。機関投資家の課題はさらなるAUMの拡大だけではないCrisil Coalition Greenwich アミッシュ・メータCEOに聞く
資産運用立国を掲げて以降、日本の金融市場は徐々に活況を取り戻している。ただし、AUM(運用資産残高)が拡大する半面、収益に十分結びつかないという資産運用会社の課題が浮き彫りになっている状況もある。こうした中ではデータドリブンな収益構造の転換が重要だと語るのは、2025年11月13日に来日し、J-MONEYのインタビューに応じたCrisil Coalition Greenwichを有するCrisilグループの最高経営責任者のアミッシュ・メータ氏だ。

マネージング・ディレクター兼最高経営責任者(CEO)
アミッシュ・メータ氏
追い風にある日本での運用ビジネス。課題は構造変革にあり
近年、資産運用業界の関心は、運用パフォーマンスそのものだけでなく、運用ビジネス全体の収益構造へと広がっている。
日本市場では金利・為替・景気指標の変化が重なり、ようやく長年のデフレ環境から脱し始めたように見える。海外投資家の日本市場への参入が再び進み、同時に日本の資産運用会社も海外展開を積極化している。結果、資金流入や商品ラインアップ拡充によって多くの資産運用会社でAUMは着実に増加している。しかしながら、AUMが伸びても事業としての収益が伸びない現状が、喫緊の経営課題と認識される状況だ。
これは、投資信託市場におけるパッシブ商品のシェア拡大、フロント(運用・調査)だけでなく、ミドル・バック領域にも新たなコスト要件が発生し、組織・人材・システム投資の優先順位が不明瞭になっているなど、構造的要因が大きい。
そうした構造的な課題の解決のために、運用会社の組織構造、営業体制、商品戦略、チャネル別の収益性、コスト・人員配分、オペレーション効率までを横断的に比較・分析し、どの領域に人材・投資を再配分すべきかを提示するサービスの重要性が高まっている。そうしたサービスを提供する一社が、Crisil Coalition Greenwichだ。
同社は、S&P Global 傘下の Crisil グループに属する、金融機関向けリサーチおよびデータ分析を提供するグローバル企業だ。同社は銀行、証券、資産運用会社を主要クライアントとし、市場シェア分析、競合ベンチマーキング、組織設計、オペレーション効率化支援など、経営判断に直結する分析サービスを展開する。
同社が重視しているのは、優れた運用サービスを持続可能なビジネスにつなげることである。単にAUMを拡大させる支援に留まらず、その成果を継続的な収益へと結び付ける組織基盤の再設計に踏み込んでいるという。
定量データは「地図」。定性データは「コンパス」
「データインテリジェンス事業の価値は、ただデータを収集・供給するだけではない。重要なのは、データそのものよりも、それをどのような文脈で読み解き、顧客の意思決定に結びつけるかである」
同グループでCEOを務めるアミッシュ・メータ氏はこう語り、組織基盤の再設計を検討する土台として、文脈を持ったデータ分析の重要性を説く。
通常、組織設計で重視されるデータと言えば、市場データ(プライシングや評価データなどを含む)、収益構造、コスト構造といった「定量データ」の類だろう。しかしCrisil Coalition Greenwichでは、そうした種類のデータだけに留まらず、経営層や市場関係者へのヒアリングに基づく、いわゆる「定性データ」を統合し、戦略立案、地域別投資判断、組織リソース配分までを提案することを重視しているという。
「海外の資産運用会社やアセットオーナーへのヒアリング結果を踏まえ、国内市場だけでは見えないグローバル基準のベストプラクティスを提示している点が当社サービスの特徴のひとつだ」(メータ氏)
同社のCIB共同統括のアンドリュー・アワド氏も、「定性データの収集は容易ではない。定性データを集める苦労については何時間でも語れる」と苦笑しながら、定性データの収集に多大なリソースを投入していると明かす。
従来のデータ分析の主眼であった定量データは、投資機会の発見、すなわち市場に存在するギャップを可視化する上で引き続き不可欠だと語る。例えば、資金流入・手数料水準・コスト構造・市場シェアといった数値は、どの領域に成長余地があるのか、どのセグメントが未開拓なのかを明確に示す。
しかし、定量的な数字だけでは「なぜそのギャップが生まれているのか」「何がボトルネックとなっているのか」など、その背景にあるメカニズムを明らかにすることは難しい。そこで定性的なデータが威力を発揮するというのだ。
「定性データは顧客の声・意思決定の動機・組織構造・実務上の課題など、数字の背後にある『理由』を明らかにする。市場参加者へのヒアリングを通じ、どこにリソースを割いているか、どのプロセスに摩擦があるか、評価指標は何かといった実務的な洞察を抽出することができる」(アワド氏)
定量データが「市場の位置」を示す地図だとすれば、定性データは「なぜそこにたどり着けないのか」などを教えるコンパスに近い。いずれか一方では、実行可能な戦略は構築できない。
日本の資産運用業界は「資産運用立国」を掲げ、追い風を受けているが、それを持続的な収益へと転換できるかは、業界全体の課題だ。データの活用が広がってきた今、「どのようなデータを活用するか」が、今後の競争力を左右する論点になるかもしれない。
















