究極の選択:パウエルの悩み
スコット・ベッセント財務長官は、世界中の、とりわけ金融市場にいる者達にとって、真意の程と思惑がよくわからない王様政権を見守る中での唯一の安心材料・安定要素になっている、と言っても過言ではないだろう。
グローバルマーケット統括本部 副会長
チーフクレジットストラテジスト
チーフESGストラテジスト
中空 麻奈
7月16日にトランプ大統領がパウエル議長を近く解任する可能性がある、という報道があった際にも、ベッセント財務長官がパウエル議長の解任はすべきでないことをトランプ大統領に説明したと伝えられた。ベッセント財務長官は、FRBの独立性を宝石箱と称した上で、その独立性を脅かしてはならないし、そのリスクがマーケットに悪影響をもたらすことを認識していたと考えられる。
実際、同氏の発言は理解可能であり、ベッセント財務長官が出て来ると、マーケットは穏便な方向に動くケースが多くなっている印象だ。しかし、そのベッセント氏に変化が出てきている。
日銀に対しても、植田総裁と話をした後で、私見として「日銀は後手に回っており、利上げを実施するであろう」としたが、他国の金融政策に対する余計なお世話であり、ベッセント財務長官としては越権行為甚だしい。同時に、米国金融政策に対しても発言した。「どのモデルを見ても、FRBは1.5-1.75%政策金利を下げるべきである」こと、そして、まずは「9月に0.5%の利下げをすべき」だと。
自国のこととはいえ、宝石箱とまで言って、その独立性を尊重してきたはずのベッセント氏のこうした度を過ぎた発言には驚きを禁じ得ないし、マーケットの信頼を受けている人だけに落胆してしまう。
米国FRBはトランプ大統領・政府の思惑通り、金利を引き下げられるのだろうか。一方、インフレが上昇するなら金利をむしろ上げなければならないはずで、究極の選択が必要になる。パウエルの悩みは深い。大きく分かれる見通しについて、今回は見ていくことにする。
金融政策を考える:物価面から
①関税による物価上昇リスク
図表1は在庫販売比率である。サプライチェーンの各段階の在庫は平均1.3~1.5カ月で、6月に関税を全面的に課された商品が小売段階で主力になるのは8月下旬から9月初旬と予想される。
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