「金利ある世界」やトランプ米政権の政策などにより、機関投資家の運用環境は不透明感を増している。目標達成のために、長期にわたり安定的に収益を確保するレジリエント(頑健)なポートフォリオとは──。マクロ経済の専門家や運用コンサルタント、第一線で活躍するアセットオーナーなどへの取材を通じてポイントを探る。

株式と債券の逆相関はここ25年ほどの傾向に過ぎない

アライアンス・バーンスタイン
運用戦略部
マネジング・ディレクター SVP
後藤 順一郎

ポートフォリオのレジリエンスの向上において、分散投資は欠かせない条件だ。例えば年金基金などの機関投資家にとって、株式と債券が逆相関の関係にあり、同時保有してリスク分散することは“常識”かもしれない。

「しかし、米英で過去250年間を振り返ると、その大半において株式と債券は順相関だった。分散投資効果が期待できる逆相関はここ25年ほどの傾向に過ぎない。日本では政策金利の水準が1995年以来30年ぶりの高さが射程に入るなど運用環境が大きく変わる現在は、固定観念に縛られず、オルタナティブ資産を含めた柔軟なスタンスでポートフォリオの見直しを検討したい」(アライアンス・バーンスタイン 運用戦略部 マネジング・ディレクター SVPの後藤順一郎氏)

例えば、インフレが高まれば金利が上昇し、株式のバリュエーションが切り下がることがある。株式評価の配当割引モデルでは、金利上昇に伴って割引率が上昇するためだ。

そのため、昨今のようなインフレ加速局面では、投資リターンが下がりやすい株式と金利上昇で価格が下落する債券だけに頼った伝統的な分散投資は機能しにくい(図表1)。そうした中で注目したい投資手法やアセットが、①バリューやクオリティなど株式の値動きを決める要因に着目するファクター投資、②プライベートアセット、③金などの3つだ。中でも比較的投資対象となりやすいのがプライベートアセットだ。

■図表1 今後5~10年で多くの資産の期待リターンが低下し、リスクは増加すると予想(実質ベース)
今後5~10年で多くの資産の期待リターンが低下し、リスクは増加すると予想(実質ベース)
過去の実績や分析は将来の成果等を示唆・保証するものではない。予想は今後変更される可能性がある。
出所: Cambridge Associates、ファクトセット、FRED、Ken French Data Library、Preqin、LSEG Datastream、AB
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ただ、活用の際は必要な資金が引き出せない流動性不足リスクやリバランスができないために資産配分が偏り過剰なリスクを負うドリフトリスク、ポートフォリオのドローダウンリスクなどに注意したい。「今後はこうした単純な資産クラスに依存した分散に頼らず、違うリターンの源泉へのアクセスが必要だ」(後藤氏)。

では、機関投資家の運用環境は今後どうなっていくのか。注視すべきはやはり米トランプ政権の経済政策の影響だ。長期的な視点でみたとき、主に次の3つの事態を引き起こすことが考えられる。

1つ目は低成長だ。関税はディグローバリゼーション(脱グローバル化)を推し進める。その結果、全体的なスケールメリットが失われ、各国・地域の経済成長率に下押し圧力が強まる。

穂谷 栄一郎氏
アライアンス・バーンスタイン
運用戦略部 兼 責任投資推進室
ディレクター
シニア・インベストメント・ストラテジスト
穂谷 栄一郎

2つ目は高インフレだ。米トランプ政権の政策のうち、例えば関税だけでなく移民排斥なども、中長期的にみると輸入物価や慢性的な人手不足による賃金上昇などに繋がる。他にも、経済安全保障の観点からグローバルサプライチェーンを見直す動きは、製造コストを上昇させる。こうした流れで、世界経済全体はこれまでの循環的なインフレから構造的なインフレに転換していくと考えられる。

3つ目は、ボラティリティの常態化だ。「1980年から2023年までの米国株式市場では、S&P500株価指数が直近高値から20%前後下落する、いわゆる弱気相場が10回あった。かつてその頻度は7年に1回ほどだったが、ここ10年は2年に1回と頻発している。その大きな要因は米国を中心とする金余りだ。米国のマネーサプライは過去最高。MMF(マネー・マーケット・ファンド)残高も近年急増し、米国マネーサプライは2022年までの約2年間で6倍に膨らんだ。マネーの価値低下は資産インフレを加速させるだろう」(アライアンス・バーンスタイン運用戦略部 兼 責任投資推進室 ディレクター シニア・インベストメント・ストラテジストの穂谷栄一郎氏)。

「1つのアセット= 1つのリスク」ではない

田口 凡生氏
野村フィデューシャリー・リサーチ&
コンサルティング
フィデューシャリー・マネジメント部
シニア・エグゼクティブ・アドバイザー
田口 凡生

こうした低成長・高インフレ・高ボラティリティ時代を乗り切るレジリエントなポートフォリオを構築する場合、どのようなアプローチが考えられるか。

野村フィデューシャリー・リサーチ&コンサルティング フィデューシャリー・マネジメント部 シニア・エグゼクティブ・アドバイザーの田口凡生氏は、企業年金の運用では「リスク分散の再検証がカギ」と指摘したうえでこう続ける。

「表面上の資産を見るだけでは内包されているリスクが分かりにくい。株式や債券などの資産から分散を考えるのではなく、全体のリスク配分を考察した上で資産配分を行うポートフォリオ構築が有効ではないか」

そこで田口氏が、レジリエント・ポートフォリオ構築のポイントとして提案するのが、「リスクファクターアプローチ」だ。最初に、リスククラスを下記の6つに分類し、リスク同士の相関も顧慮した全体最適を図ったリスク配分ベースのポートフォリオを策定する。次に、それに対応する資産別のポートフォリオを構築する方法だ。

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