2024年5月にスタートしたこの連載は、債券のそもそもの仕組みから始まり、次に株式を採り上げました。その後、債券と株式に共通する「ベンチマーク」や「パッシブとアクティブ」などについて、普段はなかなか知る機会のない歴史をひもとき、運用に資する基礎知識から若干の応用まで学んできました。今回からは「オルタナティブ編」です。債券や上場株式といった伝統的資産の運用を補完する資産について、ラッセル・インベストメントの金武伸治さんに伺っていきます。

最初は「オルタナ」=ヘッジファンド

「オルタナティブ」という言葉自体は、機関投資家にとって最頻出単語の1つですね。しかし、「オルタナティブ運用」がいつから、どんな理由で始まったのかは意外と知られていないのではないでしょうか。

金武 「オルタナティブ(alternative)」とは、「代替の・代わりとなる」という意味です。資産運用の世界においては、伝統的な資産運用に対する代替です。オルタナティブ運用自体の歴史は不動産投資にせよ、ヘッジファンド投資にせよ非常に長いのです。ヘッジファンドは1950年頃に誕生し、1960年代に拡大しました。

一方で、日本の機関投資家が導入し始めたのは2000年代初頭あたりです。当時、株式運用はITバブルの崩壊によって厳しい環境でした。たとえば企業年金(当時は主に厚生年金基金)では、2000年度~2002年度の平均的な運用実績が3年度連続マイナスとなりました。

債券運用についても、日本国債の利回りが1%を切り、低金利化と金利上昇懸念という運用難に悩む時期でした。こういった状況から、市場リスクを低減しながら運用者の運用能力、つまり銘柄選択によって絶対リターンを追求するヘッジファンドが注目されるようになったのです。

「資産」と「戦略」、2つの代替

最初は「オルタナティブ運用=ヘッジファンド」だったのですね。それでは、オルタナティブ運用の「オルタナティブ」とは、何に対しての「代替」なのですか。

【図表1】オルタナティブ運用の分類
【図表1】オルタナティブ運用の分類
出所 ラッセル・インベストメント作成

金武 さきほどオルタナティブ運用を「伝統的な資産運用に対する代替」と言いましたね。この伝統的運用に対する代替として、大きくは2つあります。【図表1】をご覧ください。1つは「資産」としての代替です。つまり、伝統的資産としての株式や債券に対する代替です。プライベート資産などで、これらを代替資産またはオルタナティブ資産と呼びます。もう1つは「戦略」としての代替です。こちらは、伝統的戦略である買い持ち(ロングと呼びます)に加えて、売り持ち(ショートと呼びます)も併用する戦略です。ヘッジファンド戦略などであり、代替戦略またはオルタナティブ戦略と呼びます。

「ショート」はネガティブ情報に対応

オルタナティブ「資産」のほうは、不動産投資などで想像しやすいですが、オルタナティブ「戦略」は想像しづらいです。たとえば、売り持ち(ショート)とは何ですか。

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