• 円ショートの積み上がりは過去のドル円暴落時に準じる
  • 日銀引き締めがアジア通貨危機と世界金融危機の一因
  • クルーグマン氏が中国金融危機予想キャンプに参加
  • ドル円相場は2023年末までに115円へ下落する可能性

円ショートの積み上がりは過去のドル円暴落時に準じる

梅本徹
J-MONEY論説委員
梅本 徹

下図は、CME(シカゴマーカンタイル取引所)におけるIMM通貨先物の投機的円ショートポジション残(マイナスで表示)と、その52週移動平均値を占めしたものである。ここで注目すべきは、過去に円キャリートレードの巨額な巻き返しによって急激かつ大幅なドル円相場の暴落が引き起こされた1998年のロシア危機と2007年の世界金融危機の直前には、ポジション残は移動平均値の2倍を超えて積みあがっていたことである。2023年7月にも、ポジション残の移動平均値に対する比率は1.8倍まで積みあがっており、現在はいかなる金融危機の勃発もドル円相場の急激かつ大幅な暴落を招来する可能性があると言えよう。

【図表】IMMの投機的円ショートポジションと52週移動平均値の推移
IMMの投機的円ショートポジションと52週移動平均値の推移
出所:CME

日銀引き締めがアジア通貨危機と世界金融危機の一因

筆者はかねてより、中国発の世界金融危機がドル円相場の暴落を招来する可能性について言及してきたが、先月、日銀が再度の長期金利高め誘導に踏み切ったことで、その蓋然性は一層高まったと考えている。

1997年のアジア通貨危機と2007年の世界金融危機が、Fed(米連邦準備制度)による金融引き締めによって誘発されたことは通説であるが、実はいずれの危機も日銀による金利引き上げが一因となっていたことはあまり知られていない。

1997年7月よりタイを中心に始まったアジア通貨危機は、Fedによる1994年2月から1995年1月に至る3%から6%への利上げや、1997年3月25日の5.25%から5.5%への利上げが誘発したと考えられてきた。しかし、日銀も1997年1月から6月まで翌日物無担コールレートの高め誘導を実施しており、実は日銀による国際的な過剰流動性の削減も、アジア通貨危機の一因となったと考えることができる。特に当該高め誘導は、バブル崩壊後のゼロ金利政策(ZIRP)や量的緩和政策(QE)実施に至る金融緩和下で一時的に実施された措置である点、2022年より日銀が2回実施した金融緩和政策の修正と酷似している。換言するなら、たとえ金融緩和下のテクニカルな利上げであっても、金融危機を招来する可能性は否めない。

2007年9月にサブプライム危機を発端に始まった世界金融危機も、Fedによる2004年6月から2006年6月に及ぶ1%から5.25%への利上げが誘発したと指摘されてきた。しかし、日銀は2006年3月9日にQEを終了し、同年7月14日にZIRPを解除している。これらの日銀による国際的な過剰流動性の削減も、世界金融不安の一因となったと考えることができる。

クルーグマン氏が中国金融危機予想キャンプに参加

中国の金融危機に関して、ノーベル賞経済学者のクルーグマン氏が筆者と同じキャンプに加わったことは、非常に心強い(詳しくは同氏による7月25日付けニューヨークタイムズ紙の論説 “What Happtned to Japan?”を参照)。1990年の日本経済と現在の中国経済の共通点は多岐にわたる。

歴史上稀な積極的なバブル潰し政策を実施した点、その後景気が悪化しいたずらに金融緩和や財政政策によって時間稼ぎした点、非金融部門民間債務残高が200%超(GDP比)でピークアウトした点、資産価格の低下と不良債権の増加が続いた点、物価がデフレに転じた点、迅速かつ断固とした不良債権処理を実施しなかった点など、枚挙にいとわない。

ドル円相場は2023年末までに115円へ下落する可能性

1997年のアジア通貨危機と2007年の世界金融危機のように、Fedによる2022年3月から2023年7月に至る0%から5.25%への利上げと、2022年12月と2023年7月の日銀による0%から1%への長期金利の高め誘導による国際的な過剰流動性の削減が、バブル崩壊という点で1990年代の経済状況と酷似した中国経済に金融危機を誘発する可能性は否定できない。

その場合、現在の円ショートポジションが過去のドル円相場の急激かつ大幅な暴落時に準じて積みあがっていることを考えれば、ドル円相場は2023年末までに115円まで下落する公算がある。