経済指標を読み解く 景気動向指数4月改定値は「改善」に上方修正のサプライズ
2020年基準への改定でコロナ禍の生産関連指標に大きな変化
景気動向指数では、機械的に景気の基調判断が行われている。2023年6月7日発表の4月・速報値での基調判断は、5カ月連続で、景気拡張の動きが足踏み状態になっている可能性が高いことを示す「足踏み」だった。この時点では、先行きのシミュレーションから、基調判断が「改善」に戻るのは早くても8月7日発表の6月速報分になると判断されていた。
しかし、6月26日発表の4月景気動向指数・改定値で、景気の基調判断が景気拡張の可能性が高いことを示す「改善」に上方修正された。6月20日に発表された鉱工業指数・4月確報値で2015年基準から2020年基準に変更され、併せて通常2月確報値で行われる年間補正が2カ月遅れで同時に実施。生産・出荷関連の一致CIの採用系列のデータが過去にさかのぼって大幅に変更されたことによって起こったサプライズだ。
例えば、2015年基準から2020年基準になったことで、第一系列の生産指数(鉱工業)・季節調整値は2020年以降のコロナ禍で月別では5月の数字が大きくなったなどの変化がみられる(図表)。
一致CIを使った景気の基調判断が速報値と改定値で異なる判断になるのはめずらしい。2021年9月から続いていた「足踏み」の判断が2022年2月速報値でいったんは継続されたものの、生産・出荷関連データの年間補正などがあった2022年2月改定値で「改善」に上方修正されて以来、2度目の出来事だ。
4月の一致CIは速報値の99.2から改定値は97.3に大幅に下方修正されたが、前月差はプラス0.1と、速報値のプラス0.2からわずかな下方修正で、ぎりぎり上昇は維持された。4月速報値では一致CI 3カ月後方移動平均の前月差はプラス0.86と7カ月ぶりのプラスだったが、4月改定値では3カ月後方移動平均の前月差はプラス0.77に下方修正された。過去の数字である2・3月の前月差がそれまでの下降・横ばいから、2月プラス0.10、3月プラス0.17とわずかな上昇ながら3カ月連続上昇(プラス)に変わった。
そのため、結果として4月改定値で「一致CI 3カ月後方移動平均の前月差の3カ月連続プラスかつ、一致CIの前月差プラス」という、景気基調判断が上方修正の条件が満たされた。
なお、景気動向指数は、7月7日公表予定の2023年5月分速報値から、CIの基準年が2015年から2020年に変更され、過去のデータも遡及改訂される予定だ。
5月・6月も景気基調判断は「改善」継続の可能性が大きいもよう
5月の一致CIは前月差若干の下降と予測される。速報値からデータが利用可能な8系列では、耐久消費財出荷指数、投資財出荷指数、商業販売額指数・小売業、商業販売額指数・卸売業の4系列が前月差寄与度プラスに、生産指数、鉱工業生産財出荷指数、有効求人倍率、輸出数量指数の4系列が前月差寄与度マイナスになるとみられる。
5月の一致CIを使った景気の基調判断は2カ月連続で「改善」になると予測される。景気拡張の動きが足踏み状態になっている可能性が高いことを示す「足踏み」に下方修正されるための条件、「当月の前月差の符号がマイナス」は満たしても、もう1つの条件、「3カ月後方移動平均(前月差)の符号がマイナスに変化し、マイナス幅(1カ月、2カ月または3カ月の累積)が1標準偏差分(7月7日に2020年基準の新しい数字が発表される予定)以上」になるほど3カ月後方移動平均の前月差が大幅な下降になることは、5月の一致CIの前月差が小幅な下降のため考えにくい状況だ。
さらに6月でも景気の基調判断は「改善」が維持される可能性が大きいと思われる。一致CI採用・第1系列の生産指数(鉱工業)の先行きを製造工業予測指数でみると6月は前月比プラス5.6%の大幅上昇の見込みだ。過去のパターン等で製造工業予測指数を修正した経済産業省の機械的な補正値でみると、6月分の前月比は先行き試算値最頻値でプラス3.4%の上昇になると想定され、90%の確率に収まる範囲はプラス2.1%~プラス4.8%と、どの数字もそれなりの上昇幅になっている。
生産指数からみて、一致CIの前月差がプラスになる可能性が大きいだろう。また、6月前月差が大幅マイナスになることに寄与する他の系列は、6月が終了した現状からみて万一前月差がマイナスになっても一致CIの3カ月後方移動平均(前月差)の2カ月累計が新たに発表される標準偏差以上のマイナス幅になるほどではないと予想している。